きかんしゃトーマス号(1)かわいい顔したハードボイルド“トーマス”に乗ってみた

江藤詩文の世界鉄道旅・夏休み特別企画
機関士の高橋一彰さん

 大井川鐵道といえば、SLを動態保存し年間300日以上も営業運転している日本で唯一の鉄道会社として、鉄道ファンにはおなじみだ。そんな大井川鐵道による期間限定のSL列車「きかんしゃトーマス号」の運転が今年も始まった。2014年に初めて登場し、今年で3シーズン目となる。

 「きかんしゃトーマス」は、英国で放映され世界中に広まった子ども向けのテレビ番組。原作は、英国人のオードリー牧師が病気の息子を楽しませるために語ったストーリーが元になった「汽車のえほん」シリーズで、架空の島「ソドー島」で「トップハム・ハット卿」が局長を務める「ソドー鉄道」を舞台に、青いタンク式蒸気機関車「トーマス」や赤いテンダ式蒸気機関車「ジェームス」といった個性豊かな車両キャラクターが巻き起こす脱線や衝突など、さまざまなものがたりを描いている。

 7月21日には「トーマス」と「ジェームス」の重連による特別列車が運行され、地元・静岡県島田市の幼稚園児や関係者、メディアが招かれて、このコラムの書き手である私もその末席に加えられた。どうやら鉄道メディアがたくさん来るらしい。日ごろひとりで鉄道に乗り、レポートしている私にはなんだか感慨深い。

 出発は大井川鐵道新金谷駅。入線したトーマス号に子どもたちが歓声を上げて駆け寄り、トップハム・ハット卿と記念撮影したりといったホームの賑わいをよそに、引き締まった表情で黙々と出発準備を進める男性がいた。トーマスの世界観にマッチしたキュートな制服を着用した機関士の高橋一彰さんだ。運転歴は10年以上。炭を投げ入れるたびにぼわっと熱風が立ち込めるが、汗ひとつかかず涼しげな雰囲気を漂わせている。

 トーマスもジェームスも、外観こそ子ども向けにかわいらしく飾られているが、その中身はSLそのもの。運転台はデコレーションされておらず、SLらしい無骨な面影が感じられる。これなら子どものみならず大人の鉄道ファンの気も惹きそうだ。高橋さんによると、蒸気機関車の運転は、マニュアルに頼らずその日の状況や機関車のコンディションによって機関士が判断したり操作することが多いため、電車とは比較にならないほど難しいそうだ。「通常3人ひと組のチームで運転しています。今日のような夏日の投炭作業はほんとうに暑いですし運転も難しいですが、そのぶん手応えがあり楽しいですね」。

 「SLそのものの力強い走りを感じてください」。そう言って高橋さんは、再び炭を投げ込んだ。出発は近い。