国際ジャーナリスト・堤未果氏『政府はもう嘘をつけない』

著者は語る

 ■脳内世界地図 アップデートのチャンス

 一体私たちは何を見せられているのだろう?

 パナマ文書に黒塗りTPP資料、五輪疑惑に都知事の辞任、異色の候補者に振り回される米国大統領選、足元では憲法改正までのカウントダウンが始まっている。大学院時代の恩師は私に言った。「ニュースに違和感を覚えたら、カネの流れをチェックしろ」

 この手法は3・11後の日本が、9・11後の米国と見事にパラレルになっている事実に気づかせてくれた。あの時まとめた「政府は必ず嘘をつく」から4年、高速であふれる情報を商業マスコミがスピンする中、真実はますます見えなくなり、国内外からじわじわと危機が忍び寄っている。企業城下町と化した米国では、カネの流れを追って初めて大統領選の大局がみえるだろう。

 パナマ文書の本質や、世界各地で勃発する「民主化革命」の真の目的、熊本地震を理由に政府が導入を急ぐ「緊急事態条項創設」が米英を震え上がらせるワケ。今後日本の警察が、私たちのメールやブログ、SNSのパスワードを外しのぞき見ることの危険性、1人の母親の「日本死ね」発言の後、保育のみならず介護や医療、農協までも解体されつつあるのはなぜか?

 そう、「政治とカネのグローバル化」は教えてくれる。違和感を覚えるニュースを点ではなく線でつなげると、世界の裏側があぶり出されてくることを。そのアンテナを磨くのは、情報に対する直感と想像力、そして他者への優しさだ。

 「今だけカネだけ自分だけ」の対極にある、私たち日本人のDNAが持つ「お互いさま」の精神。それは世界で同じように強欲資本主義と闘うたくさんの市民とをつなぐ、目に見えない懸け橋になるだろう。今夏始まった18歳選挙が、今ほど価値を持つ時代があっただろうか。世界が2つの価値観を前に岐路に立つ今こそ、私たち大人も、脳内世界地図をアップデートするチャンスなのだ。(864円 角川書店)

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【プロフィル】堤未果

 つつみ・みか 国際ジャーナリスト。東京都生まれ。ニューヨーク州立大学院国際関係論学科卒業。国連、NGO、米国野村証券を経て現職。日米を行き来しつつ、執筆・講演・メディア活動を続ける。多数の著書は海外でも翻訳されている。『ルポ 貧困大国アメリカ』で新書大賞/エッセイストクラブ賞、『政府は必ず嘘をつく』で早稲田大学理事長賞受賞。