なぜ?月収3万円でもスーツの値段は20万円! コンゴ紳士のファッション哲学
平均月収約3万円、世界でも貧しい国とされるアフリカのコンゴ共和国。そこに、カラフルな高級スーツに身を包み、街をかっ歩する紳士集団「サプール」がいる。その姿はインターネットを通して世界に広がり、今や各地で写真集が出版されるほど。約2000人もいるといわれるサプールのうち、リーダー的存在の5人が、大丸心斎橋店で開かれている写真展「ザ・サプール」に合わせて来日、“おしゃれ哲学”を語った。(木村郁子)
ファッションは人生
メード・イン・フランスのグレーのスーツ。襟もとには明るい紫色のストールを流し、胸にはやはり紫系のポケットチーフ。ネクタイは、ブルーと紫の幅広タイプ、と粋な着こなしを披露したのは、元森林経済省勤務というムィエンゴ・セヴランさん(61)。スーツの値段は、「20万円」という。
「ファッションは人生そのもの。週末は街のすべてが社交場となり、サプールのメンバーと互いのファッションについて語り合い、批評し、競り合うんだよ」とにこやかに話す。
サプールとは「おしゃれで優雅な雰囲気をまとった紳士」を意味する造語。上質な服をエレガントに着こなし、非暴力を貫き、喜びを分かち合う。ファッションで平和をアピールする集団でもあり、コンゴ国内では尊敬される存在だ。ちなみに、“サプール名”のような通称名を持って活動する。そのため、「イヴ・サンローラン氏」もいる。
内戦時、庭に穴掘って服を埋めたが…平和でなければ楽しめない
セヴランさんは父もサプールでその姿に憧れ、おしゃれを磨いてきた。だが1990年代に内戦が勃発。家を離れることになったとき、それまで買い集めた洋服や靴を盗難や焼失から守ろうと、大きな布に包んで庭に穴を掘って埋めたという。3日ほどで家に帰れると思っていたら、実際に家に帰ったのは1年以上経ってから。掘り出した洋服はぼろぼろに崩れ、靴は変色して朽ちていた。「戦争は何も生み出さないね」。
終戦後、再びお金をためてスーツやネクタイ、靴を買った。内戦でばらばらになった仲間も少しずつ戻り、サプールは復活をとげた。「平和でなければファッションは楽しめない。もちろん、サプールを維持することもできないのです」と語る。
コンゴの人たちはヨーロッパに職を得ている人も多く、コンゴ国内で扱う洋服もイタリアやフランスのものが多い。サプールが身を包むスーツも、憧れのヨーロッパメードがほとんどだ。そんな中、カンガ・エリックさん(37)は、コンゴに店を持つファッションデザイナー。この日は、自身がデザインした真っ白のスーツを着用していた。
襟や裾には青いサテン素材をあしらい、シャツはピンク。はっとするほど鮮やかだが、不思議とまとまっている。「サップであると認められることは日常に光をあてるような喜び。ぼくたちが着飾ることで多くの人に喜びを伝えられる」と話す。
服が汚れるから争わない
数十万円もするスーツに身を包むサプールではあるものの、その多くは富裕層ではなく、大工や電気工事などで身を立てる労働者階級。なぜ彼らは給料の大半をつぎ込んで、高級スーツに身を包むのか。
「私たちコンゴの人間にとって、着飾ることは、歴史的にも続けられてきたことです。喜びを分かち合い、平和を願い、希望を持ち、先祖を敬う。その精神性をエレガントな衣装で表現するんですよ」とセヴランさんはいう。
サプールを追い続ける写真家、茶野邦雄さんは、「彼らの言い分はすごくシンプル。服が汚れるから争わない。彼らがファッションで平和への道筋をつけていること、多くの人の希望になっていることを伝えたい」と話している。
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写真展「THE SAPEUR」は16日まで大丸心斎橋店北館10階の特設会場で開催。無料。
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