「1億総活躍」の妨げに 欧米に比べ「圧倒的に家事をしない夫」が日本を滅ぼす

 

【日曜経済講座】

 「1億総活躍社会」の実現に向け、政府は女性の活躍推進に躍起だが、欧米に比べ圧倒的に家事・育児をしない日本の夫が、その妨げになっているという。それどころか、家事・育児をしない夫が少子化を加速させ、日本の衰退を招いているとの統計データもあるが、夫の育児休業の取得率や家事・育児の従事時間は政府が掲げる目標に遠く及ばないのが実情だ。

 「『パパ、イヤ!』と言われて激しく落ち込んでます」

 2歳の娘が通う保育園の父母懇親会。父親の出席率が高く、それぞれ家族代表であいさつすることになったのだが、大半の父親が同じ悩みを口にし、「うちだけじゃないんだ」とホッとした。

 朝の送りは父親の担当という家庭は多いし、早めに仕事を切り上げて迎えに来る父親の姿も珍しくない。みんな結構がんばっているのだ。

 ところが、厚生労働省によると、平成27年度の夫の育休取得率はわずか2・65%。過去最高を更新したとはいえ、前年度からの上昇は0・35ポイントにすぎず、32年に13%に引き上げるという政府目標はとても達成できそうにない。しかも、夫の取得期間は「5日未満」が56・9%と最多で、1カ月未満が全体の8割以上を占める。これでは妻の活躍を後押しすることには到底つながらない。

 形式的な取得率よりも、実質的に求められているのが、夫の日常的な家事・育児参加だろう。ところが、総務省の23年の調査では、6歳未満の子供がいる家庭で夫が家事・育児に従事する時間は1日当たり1時間7分(うち育児は39分)にとどまる。米国の3時間13分(同1時間5分)やドイツの3時間(同59分)に比べると3分の1という低水準だ。政府は32年にまずは2時間30分まで増やすことを目標にしている。

 ちょっと恐ろしい統計データ=グラフ=がある。夫が休日に家事・育児をする時間と第2子以降の出生率の関連性について、厚労省が23年に調査したものだ。

 それによると、夫が家事・育児をまったくしない夫婦の第2子以降の出生率は9・9%にとどまった。家事・育児時間が増えるほど出生率は高まり、6時間以上では67・4%にまで上昇した。つまり、休日に夫がゴロゴロしてテレビばかり見ていると、1人の女性が一生に産む子供の平均数を示す合計特殊出生率が人口維持の目安とされる2・07(27年は1・46)をどんどん下回り、少子化が加速して日本は滅びかねないのだ。

 日本の夫が家事・育児をしないのは「男は仕事、女は家庭」という古くさい考えがいまだに根強いからではない。ニッセイ基礎研究所の天野馨南子(かなこ)研究員は「男性の長時間労働が最大の原因。やりたくてもできない」と、夫たちを“擁護”する。

 独立行政法人労働政策研究・研修機構によると、日本の男性就業者のうち週49時間以上の長時間労働をしている人は30%を占める。10%程度の欧州諸国の3倍だ。天野氏は「長時間労働を前提とした働き方を改めることが必要。そのためには男性と女性が仕事をシェアし、時間当たりの労働生産性を高めることが重要になる」と訴える。

 少子高齢化で労働人口が減少し潜在成長率がじり貧となる日本にとって、より効率的に仕事を行い、労働生産性を高めることが重要視されている。日本生産性本部によると、日本の26年の就業1時間当たりの労働生産性は41・3ドルで、経済協力開発機構(OECD)加盟34カ国中21位、先進7カ国で最下位に甘んじている。これに対し、夫の育休取得率が約90%に達し、家事・育児従事時間も1日当たり3時間12分(うち育児は1時間13分)というノルウェーは、日本の倍以上でOECD2位の85・6ドルを誇る。

 夫の家事・育児と労働生産性の関連性は侮れない。育休取得率が80%超、家事・育児従事時間が同3時間21分(同1時間7分)のスウェーデンでは、家具チェーンのイケアやファストファッションのH&Mが、女性を積極的に登用し世界中の消費者から支持され、急成長している。

 日本でも女性の活躍と企業業績の関連性は顕著で、経済産業省の調査(約300社対象)では、女性管理職比率が平均以上の企業の利益率が7・4%だったのに対し、平均以下の企業は5・3%にとどまった。

 夫が家事・育児をがんばると、少子化に歯止めがかかり、女性の活躍が推進され、労働生産性が高まり、潜在成長率は上昇し、企業業績も伸びる-。そんな成長シナリオを描くことができるのだ。(経済本部編集委員・小塩史人)