ウインカー出さない危険な“岡山ルール” 交通マナー全国最悪の実態とは?

 
岡山市内の交差点では、注意を促す看板や道路に「★合図」と大きく書かれているが、中央の車は合図を出さずに車線変更を行っていた(一部画像処理しています)

 右折、左折時や車線変更時に方向指示器(ウインカー)を出す。そんな当たり前の交通ルールが、なぜか岡山県では守られていない。「自己都合による勝手なルールがまかり通っている例が散見される」「基本的な交通ルールを守らない車両が、いまだ少なくない」。現職と前職の岡山県警本部長の県議会での発言だ。日本自動車連盟(JAF)が発表したアンケート結果で、右左折の合図を出さない車が最も多い都道府県が「岡山県」だった。県警は取り締まりを強化し、交通マナー向上を目指した取り組みを続けるが…。ルールを守らないのは県民性なのか。

 「交通マナー悪い」との回答が58%

 今年7月に発表されたJAFのアンケート結果。「方向指示器を出さずに車線変更や右左折する車が多い」との質問に対し、「とても思う」と「やや思う」と回答した割合が、岡山県は91%と全国で最も高かった。合図を出さない場合は道路交通法53条に違反し、反則金が5~7千円、違反点数1点が科される。

 また、「お住まいの都道府県の全般的な交通マナーについて、どう思いますか?」の問いに「悪いと思う」「とても悪いと思う」と回答した割合も岡山県は58・6%で、全国8位の高さだった。

 この結果を受けて、岡山トヨペット(岡山市南区)では8月20日、「ウインカーを出そう★宣言」と題した啓発活動を開始。新車購入者に「ウインクしよう~車線変更/曲がる前にウインカーを~」と書かれたマグネットステッカーを配布したり、来店客の子供にお守りを配って、親にウインカー合図を出すように呼びかけるメッセージを書いてもらうワークショップなどを行った。

 「慣れてしまった」人も

 岡山のドライバーはウインカーを出さない-。以前から言われていたこととはいえ、アンケートで改めて示された結果に県民は驚いたようだ。

 同店を訪れた岡山市南区の主婦(36)は「ワースト1位と聞いて驚いたが、ウインカーを出さずに車線変更する車をよく見る。子供を乗せて走るので気を付けてほしい」。同市中区の主婦(34)は「熊本県出身なんですが、岡山に来て運転マナーが悪いことにびっくりした。危ないし、怖いのできちんと合図を出してほしい」と話した。

 また、同区の主婦(32)は「県外の友だちに『なんで岡山の人は曲がる時にウインカーを出さないの?』と疑問を投げかけられた。県民性なのだろうか」と振り返り、同区の女性会社員(35)は「(他のドライバーが)合図を出さないことに慣れてしまった自分がいる」と話した。

 危険運転を多く目撃

 記者は昨年5月、岡山支局に配属されたが、車を運転していてウインカーを出さずに右左折する車に多く出くわした。さらに、今まで経験することがなかった危険な運転や目を疑うような状況も目撃した。

 例えば、交差点を通行中に黄信号になったが、後続車2~3台が加速して交差点に進入したり、黄信号で停車したところ、後続車が車線をはみ出して猛スピードで追い越し、赤信号の交差点を強引に突破したり…。ショッピングセンターの駐車場の通路に駐車する車や一方通行を逆走する車も見た。

 運転マナーの悪さは平成27年12月の県議会でも取り上げられた。県議が「『県民は交通ルールを守らない、交通マナーが悪い』といわれることが多く、車線変更時や右左折時に方向指示器を出さない、『とまれ』(の表示場所)を止まらないなど、県民の一人として残念」などと答弁した。

 これに対し、斉藤良雄県警本部長=当時=も「信号の変わり目で加速しての無理な進行、一時停止の不徹底など、基本的なルールの不順守が他府県に比べても極端に目につく」と答え、「自己都合による勝手なルールがまかり通っている」と認めた。

 県民性の表れ?

 ほかにも、「合図を出さないことが格好いいと思っているのだろうか」=岡山市南区の主婦(36)、「マナーやルールを守れない大人は格好悪い」=同市中区の小6女児(11)=などの声も。

 なぜ、岡山ではこうも交通マナーが悪いのか。やはり県民性なのだろうか。

 県民性に詳しい出版プロデューサーの岩中祥史さんは「交通法規を守らない人は西日本に多い。岡山は中国地方にありながら東を向いていて、反中央意識が根っこにある大阪の影響があるのでは」と分析。

 さらに、「岡山は教育県として昔から勉強する人が多く、理論理屈が立つ。理路整然とした理論だてにたけている半面、自分勝手に理屈づけるところがある」といい、それが交通マナーの悪さにつながっている可能性があるとみる。

 ただ、「100%納得できるものがあれば、違反もなくなるのでは」といい、「運転は県民性を反映するが、それはそれとして(交通法規は)守らなければならない」と話す。

 「合図の徹底」呼びかけ

 県警も手をこまねいているわけではなく、これまで交通マナー向上に向けた運動を展開。平成17年にはドライバーに合図を徹底しようと、県独自に「★合図」の路面表示を導入し、県内28交差点に設置した。

 今年3月には交通情報板に「交差点で黄色信号が現れた」→「止まる?はい・いいえ」→「岡山の交通秩序が回復した」という表示が順に現れる啓発活動を実施。人気ゲームを想起させると話題になった。ただし、「情報板を凝視することで交通事故や渋滞が発生する心配がある」として数日で休止となったが…。

 この秋の交通安全運動の重点目標にも「合図の徹底」を掲げ、広く周知していく方針だ。西郷正実県警本部長は「春と秋の交通安全県民運動で合図の徹底を重点目標とし、関係機関・団体とともに広報啓発活動を行っている。これらの取り組みを強力に推進することに加え、合図不履行に対する交通指導取り締まりを強化したい」と話す。

 県警交通企画課も「合図を出さないのはマナー違反ではなく、ルール違反であることを再認識してもらうように指導取り締まりを推進していきたい」とする。

 用水路転落に続き

 岡山県では用水路への転落事故が多発し、その対策が急務になっていることがニュースになった。そして今回は、ウインカーを出さないなど交通マナーの悪さがやり玉に。またも不名誉な話題がクローズアップされ、県民としてはやりきれない気持ちだろう。

 伊原木隆太知事は「(交通マナーの悪さは)岡山県民として反省しなければいけないことだと思っている。運転というのは本当に県民性を映すところがあり、命に関わっているんだという意識をもっと浸透させなければ」と話している。