「社内運動会」復権の兆し、合同開催も 社員の絆強め、士気高める

 
20年ぶりに復活した松屋の社内運動会。約1500人が参加する盛況ぶりだった(同社提供)

 かつて日本の企業でさかんに開催されていた「社内運動会」が注目を集めている。長く廃止していた企業が復活させたり複数の中小企業が合同で開催したり、さまざまな形で行われている。企業を取り巻く環境が厳しくなり、人間関係が希薄になる中、社員同士の絆を強めたり、士気を高めたりするのが狙いのようだ。(木ノ下めぐみ)

 1500人の熱気

 6月上旬、東京都墨田区の両国国技館。百貨店の松屋が20年ぶりに社内運動会を復活させた。景気悪化を理由に平成8年から中止していたが、31年の創業150周年の節目を控え、社員の一体化を図りたいと運動会復活を求める声が上がり、今回限りの取り組みとして企画された。

 開催されたのは銀座店(東京都中央区)の休業日。同店の社員の大半とその家族、取引先など約1500人が参加。綱引きやリレーなどを楽しんだ。企画に関わった同社総務部広報課の大原純さん(45)は「20年前は社員だけで行っていたので、これほどの参加者数は初めて。すごい熱気でした」と振り返る。企画段階では「せっかくの休業日なのに」と否定的な意見もあったというが、「大盛況だった。来年以降の継続を望む社員も多い」と話す。

 配慮し合える

 景気の悪化や、休日はプライベートで楽しみたいと望む社員の増加などを理由に、平成に入った頃から、社内運動会を廃止する企業が増えた。しかし、新入社員の中には、運動会の開催を前向きにとらえる風潮もあるようだ。

 公益財団法人日本生産性本部(渋谷区)が今年3月から4月にかけて、同法人が実施する研修に参加した新入社員1951人を対象に実施した調査によると、「会社の運動会などの親睦行事は参加したい」という設問に対し、「そう思う」と答えた人は82・3%に上った。

 グンゼ(大阪市北区)は24年に就任した児玉和社長の呼びかけで26年、26年ぶりに社内運動会を復活させた。3回目となった今年は9月下旬に大阪府門真市の体育館で開催。社員や家族ら約450人が参加した。

 初参加の同社秘書室、許本幹子さん(30)は運動会の応援団に所属。1カ月前から練習を始め、自宅でもほぼ毎日、就寝前の30分間を自主練習にあてた。練習のかいがあり、応援の部で優勝。「応援団のメンバーは、普段仕事で関わることのない他部署の人ばかりでしたが、人脈が広がりました」と喜ぶ。

 営業部門の藤原大我さん(40)は妻(39)、長女(6)と参加した。当初は「楽しめるか不安もあった」という。だが当日、会場に出向くと、互いに家族を紹介し合える絶好の機会に。「ママさん社員が子供の急病で休むときにも『あの子か』と顔が浮かぶ。今まで以上に配慮し合えるようになった」と社内運動会の効果を実感していた。

 企業対抗も

 中小企業でも機運は高まっている。イベント企画会社「ベスメモ」(大阪市北区)は26年10月、「よりあい運動会」をスタートさせた。人数を集めにくい中小企業や、大手企業の部署単位で参加を募り、企業対抗で開催するイベントだ。これまでに6回開催し、延べ30社が参加した。

 同社の三好光太郎社長(41)は「競技を通じて他社と自社の雰囲気などを比較できる機会になる」と話す。女性社員が多く、歓声も華やかな他社の様子を見て自社の女性社員の比率の低さを痛感し、女性を積極的に採用するようになった企業もあるという。

 「運動会で強いチームは、団結して戦略を立てられる、業績の良い会社が多い」と三好さん。「仕事を超え、一体となれるのが運動会の魅力」と話している。