次は150万円の壁…配偶者控除の見直しで未婚者とばっちり?パート妻は“大移動”か

提供:PRESIDENT Online
会社員の妻をめぐる配偶者控除や社会保険料

配偶者控除の見直しでパート妻の「民族大移動」?

 安倍首相は、所得税の「配偶者控除」の見直しに意欲を示している。当初は「廃止」の方針だったが、廃止を見送って、年収要件を150万円などに拡大する案も出ている(2016年10月7日の新聞報道)。

 現在は、いわゆる「103万円の壁」というものが存在している。

 妻がパートなどで年収103万円以上稼いでしまうと、夫の税金が増えるので、それを懸念して扶養の範囲内(年収103万円未満)で勤務する日数や時間を調整することのだ。

 この「配偶者控除」の廃止がされたり、または、この「103万円の壁」が逆に「150万円の壁」などとして拡大されると、女性の働き方はどんな変化が生じるのだろうか? 現状が1日5時間勤務で、週20日以内で勤務している主婦がいたとして、彼女らはどんな働き方に変わるのだろうか? 考えられる選択肢を列挙してみた。

 (1)正社員として勤務する

 (2)長時間勤務の非正規として勤務する

 (3)短時間勤務の非正規として勤務する

 主婦の働き方は、子供の年齢によって左右されるといわれている。子供が小さい時は、子育てに追われているため、「(3)短時間勤務の非正規として勤務する」人が多いのではなかろうか? 

 子供が大きくなって手がかからなくなると、今度は「(1)正社員として勤務する」もしくは「(2)長時間勤務の非正規として勤務する」を選ぶ向きが増えてくるだろう。

 だが、「(1)正社員として勤務する」のは、本人にとってデメリットもある。日本では、正社員の場合、転勤がありえるからだ。遠隔地に転勤になってまでも勤務する主婦は少ないと思う。だから現実的には「(2)長時間勤務の非正規として勤務する」主婦が増えると想像する。

 つまり、子育てが一段落した40代とか50代の主婦の中で、「(2)長時間勤務の非正規として勤務する中高年の主婦」が増えるというのが筆者の予想である。

 このことは、会社側にとってメリットとデメリットの両方があるだろう。

 会社側にとってのメリットは、働き手として、よりアテにできるようになることだ。例えば、年末になると、調整のために休む人がいるが、そんなことはなくなるだろう。昇給とか賞与でもっと報いるようになれば、定着率も上がるだろう。

 会社側にとってのデメリットは、時給が上がったり、賞与が増えたりすることだ。これまでは「103万円の壁」のおかげで昇給とか賞与に対する要求が抑えられていたが、それがなくなり、人件費が高騰するだろう。

企業の家族手当 子持ち社員優遇 未婚者はゼロ円も

 「配偶者控除」の見直しで考えられる「会社の対応法」をもう少し掘り下げてみよう。まず頭に浮かぶのは、家族手当の見直しだろう。

 人事院の「平成27年職種別民間給与実態調査」によれば、76%の会社が家族手当を支給している。そのうち、配偶者に家族手当を支給しているのは90%に達している。

 その配偶者に対する家族手当は「所得制限がある」会社が84%あり、その所得は103万円が68%、130万円が25%だという。

 支給基準である103万円というハードルがなくなったり、逆に150万円に引き上げられたら、会社はどんな対策を講じるのだろうか? 考えられるものを列挙してみよう。

 (1)健康保険の扶養の基準(130万円)に切り替えて、家族手当を従来通り支給する

 (2)家族手当を廃止する

 (3)配偶者分を廃止して、子供分を引き上げる

 上記の中で、一番、従業員からの反発が少ないのは「(1)健康保険の扶養の基準(130万円)に切り替えて、家族手当を従来通り支給する」だ。これなら何の議論も起きない。

 「(2)家族手当を廃止する」というのも、増える気がする。現に、東京都の中小企業賃金・退職金事情によれば、家族手当を支給する会社はこんな感じで減ってきている。

 《昭和57年》83.4%

 《平成12年》75.3%

 《平成26年》58.3%

 しかしながら、単なる不利益変更では従業員からの反発も予想されるので、その承諾を得るのが大変そうだ。

 「(3)配偶者分を廃止して、子供分を引き上げる」というのは、少子高齢化が進む中で、1つの対応策かもしれない。例えば、こんな家族手当があったとする。配偶者および子供2人という前提だ。

 配偶者分8000円+子供分4000円+子供分4000円=合計1万6000円

 このような場合は、以下のように見直したらどうだろうか?

 配偶者分0円+子供分1万円+子供分1万円=合計2万円

 妻の分の手当ては0円にする代わり、子供分は手厚くする。そうすれば社員によって損得は出る(未婚者は一番損する可能性がある)ものの、納得する人も既婚者や子供が多い社員を中心に一定数出るだろう。次回は、「配偶者控除」の見直しで考えられる「女性の働き方の変化」と「会社の対応法」についてレポートしていこう。

 (賃金コンサルタント 北見昌朗=文)

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