東大合格だけではない ネットの高校「N高」がめざす医師やグローバル人材の育成
VRヘッドマウントディスプレイを使ったバーチャル入学式を行い、遠足はオンラインゲームの中という、ネット時代を象徴する話題を繰り出し注目を集めたカドカワの通信制高校「N高等学校」。4月の開校から半年が経ち、打ち上げ花火のような派手なニュースはなりを潜めたが、内部では東大合格をめざすコースでの高密度教育や、地域を訪れての職業体験、就職にも役立つプログラミング教育などが展開されて、生徒やその親たちから好評を得ている様子。来年度以降の新展開も準備して、教育の新しい形を見せようとしている。
短い期間に偏差値を大きく上げ、難関大学に教え子を合格させた「ビリギャル」で注目を集めた坪田塾の坪田信貴氏が、持てるノウハウを注いで東大に合格させるという触れ込みで、「N高」で学ぶ生徒から受講生を募集した「N塾」。30人が入塾を希望して7人が試験に合格し、途中で2人のリタイアがあったものの、5人が残って寮で暮らしながら朝から夜遅くまで勉強漬けの毎日を送っている。
塾生が30人の定員に届いておらず、リタイアも出たのは「実力がそれほど高い人がおらず、意慾についても続けることが難しかったから」とカドカワの川上量生社長。短期間で成果を出すためには基礎となる学力が必要で、目的のために頑張る姿勢も不可欠だった。そうしたハードルをクリアして入塾し、ハードなカリキュラムに従って学び始めた塾生たちには、早くもその成果が出始めている。
3年生で文系の生徒は、200点満点で75点だった英語の点数が155点に上がり、偏差値も41.2から66.7へと上昇した。数学ⅠA、日本史の偏差値も40台から60台前後へと急伸。理系の3年生も35点だった英語が141点になり、数学ⅠBは24点から74点、数学ⅡBは8点から69点へと増加して、30台だった偏差値も60前後に上がった。
この時点の成績で合格となると難しいが「可能性はゼロではない」と川上社長。受験までの追い込みによって成績を積み増し、目標だった東大合格者を出すことで、親も安心して学ばせられるシステムを持った通信制高校という認知を得たいと意気込む。
難関大学への進学支援では、「代ゼミNスクール」も展開している。「N高」のカリキュラムをこなしつつ、週に1日から6日、希望する日数だけ代々木ゼミナールに通学しながら学ぶコースで、初年度は18人が受講している。こちらも成果は上々で、1年生でありながら偏差値66を叩き出す生徒が出るなど、それぞれが順調に成績を上げてきている。映像と対面での授業があり、個別指導も受けられるコースに、保護者からは「上質な授業でモチベーションが下がった時も復活してくる」といった声が寄せられている。
大学進学ばかりではない。通常の高校としてのカリキュラムでも生徒やその親から好評を得ているようだ。「面白い授業がモチベーションの維持に繋がる」といった声や、「ネットでもリアルでも交流がある」と、ニコニコ超会議への出展、沖縄でのスクーリングといったリアルに出会う場を用意している体制を評価する声があり、生徒の満足度は82.8%に達しているとアピールした。漁業や刀鍛冶などを体験する職業体験については満足度100%。押しつけではなく、現場で自分たちなりに考えて取り組むようにしている点も高評価につながっているようだ。
確実に成果を出し始めている「N高」だが、その挑戦はまだ続く。東大をめざす「N塾」や、難関大への進学をめざす「代ゼミNスクール」に加えて、新たに医学部や医大に進みたい学生のための専用プランを2017年4月、「代ゼミNスクール」の中に開設する。
志望校の受験科目に特化した学習指導を行うのは当然として、卒業後に医師となる人に持っていて欲しい教養を身につけさせる、Y-SAPIXオリジナルの「リベラル読解研究」を提供。生徒は哲学や歴史、経済といった分野に関する書籍を読んで討論を行い、知識やコミュニケーションを身につける。
ベストティーチャーが提供する「オンライン英会話」も活用して、書く、読む、聞く、話すといった英語の4技能を高めていく。1年生から3年生までが対象のプラン「エクシード」のほか、3年生が対象の「プレミアム」があって、こちらでは週6日通学で映像授業や対面授業を行い、週6コマの個別指導も受講させる。
学びのプロデューサーと講師による合格指導法戦略会議によって、合格までを徹底的にフォロー。受験校マッチング診断によって合格できる学校を決定し、合格の可能性を最大限まで高めようとしている。授業料はエクシードが週1日で71万円から週6日で375万円、プレミアムが週6日で393万円。いずれのプランも入学金・出願料込み、N高校の学費は別に必要となる。エクシード入学希望の高校3年生には選抜試験が課せられる。
もうひとつ、グローバル人材の育成に向けた「国際留学コース」も語学教育のベルリッツ、ベネッセと連携して2017年4月からスタートさせる。国内でベルリッツ・ジャパンのランゲージセンターで6カ月間通学して講師による直接指導を受け、オンラインレッスンも受講して英語の力を高める。その後、オーストラリアにあるベネッセグループ提携の機関に3カ月留学し、実践を通じて英語の力やコミュニケーションの能力を鍛えていく。
受講料はグループレッスン(通学レッスン360回、マンツーマンオンラインレッスン240回)が131万円、マンツーマンレッスン(通学レッスン120回、マンツーマンオンラインレッスン240回)が135万円。オーストラリアへの留学費用が概算160万円。医系コースも国際留学コースも、学力の向上だけでなく、自分で考える力、誰かとコミュニケーションを取る力を合わせて鍛えるようとしている点が特徴的。学力だけを伸ばす教育とは違って、人間性の育成にも目を配った学校として、少子化が進む中でポジションを得ていきそうだ。
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