粟津恭一郎氏「『良い質問』をする技術」
著者は語る□コーチ・エィ取締役エグゼクティブコーチ 粟津恭一郎氏
■気づきを与え、成功に導く
企業経営者や将来の社長候補に「質問すること」を仕事とするエグゼクティブコーチに就いて13年。その経験から「成功者と呼ばれる人ほど、自分にも他人にも『良い質問』を投げかけている。つまり非常に高い質問力を備えている」ことが分かった。
前向きでポジティブな社長は他人からの「質問」も大事にしている。人からの「質問」は視点を変え、創意工夫や成功をもたらし、気づきを与えてくれるからだ。
言い換えると、人に質問をされないと、視点を変えるチャンスを失してしまい、新たな発想が生まれなくなる。役職が上にいくほど質問されなくなるので、質問させる環境を意図的に整えることが自分にとっても、企業にとっても重要になる。
時代の変化もあるのか、エグゼクティブコーチをつける社長が増えている。以前は「役に立つの?」と懐疑的だったが、最近は「思考を深めるために質問が必要だ」と興味を持つようになってきた。
ゼロ成長時代を迎え、他社と同じでは生き残れない、既存事業の延長線上には未来がないという危機感の表れだ。新しい事業のタネを探すため、社員や顧客などの声に耳を傾ける人が社長になっているともいえる。良い質問を考えて面談を始めたという顧客の「質問は相手にも自分にも有意義で、関係構築に役立つ」という言葉はコーチング冥利(みょうり)に尽きる。
「良い質問」の執筆を通じて私も新たな気づきを得た。「4つの質問と3つのV」だ。質問には「良い質問」のほか、相手を萎縮させる「悪い質問」、答えにくいが気づきを促す「重い質問」、相手との関係づくりに役立つが気づきの少ない「軽い質問」の4つがある。この「軽い質問」「重い質問」を「良い質問」に変えることを心がけることが重要だ。
一方、3つのVとはビジョン、バリュー、ボキャブラリー。このキーワードを疑問詞と組み合わせて質問を作ると質も高まる。
執筆の過程で自ら積み上げてきたコーチングの暗黙知を形式知に変えることができた。後輩の指導に加え、自らの成長にも役立った。質問し答えることで人がつながり組織が動く。コミュニケーションが企業成長をもたらすのは間違いない。(1512円/ダイヤモンド社)
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【プロフィル】粟津恭一郎
あわづ・きょういちろう 早稲田大大学院アジア太平洋研究科国際経営学専攻修了。ソニー入社。2004年コーチ・エィに移り、10年取締役。主に大企業経営者、次期経営者を対象にエグゼクティブコーチとして活躍。11年4月から中央大大学院戦略経営研究科客員教授。49歳。滋賀県出身。
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