歴史に学ぶ国際ビジネス 企業経営、就職活動の指針に

論風

 □KUURAKU GROUP社長・福原裕一

 11月16日、政府は「働き方改革実現会議」の会合を首相官邸で開いた。会合では人材育成や転職・再就職支援の在り方などについても議論。首相は結婚や出産などを理由に退職した女性の再就職を支援するリカレント教育を推進するため「より多くの方が学び直しができるよう助成制度の拡充を検討したい」と表明した。

 ◆学び直しがブームに

 しかし、経済協力開発機構(OECD)の2012年国際成人力調査(PIAAC)によると、22歳までの就学率は世界でもトップレベルなのに対し、30歳以上の成人のうち何らかの形で学校に通っている通学率は、日本はわずか1.6%と世界で最下位という現実がある。そんな中でも今、ビジネスマンの中で日本史や世界史などをはじめとした「歴史の学び直し」がひそかなブームになっているという。

 わざわざ学校に行かずとも書籍などで容易に学び直しができる利点があることも要因の一つだが、安易に先が見えない未来が不透明な時代だからこそ、さまざまな窮地を乗り越えてきた歴史の転換期の戦略からヒントを探そうとする人が増えたのかもしれない。

 また、実際にビジネスを行う上で必要に迫られるシーンが増えてきたと私自身感じている。特に痛感したのは海外に行く機会が以前より圧倒的に増え、外国人のビジネスパートナーと話す際に日本という国を客観的に見る視点が必要になったことが挙げられる。

 思いがけない「なぜ」の質問を受けて今までは当たり前だった事柄が日本独特の文化だったと気づく。理由を説明しようとすると、これまでの歴史を理解できているかが大きな分かれ道となる。もちろん自国だけでなく他国に関しても同様のことがいえる。

 今までも関わる人の人間性を知る上でその人が歩んできた生い立ち、すなわち歴史を知ることは大切だと考えてきたが、出生国が異なるのであればその国の歴史や文化を知らなければ本当の意味でその人自身のことを理解したとは言い切れないだろう。

 ◆情報・思いを共有

 そして最近、歴史というキーワードで振り返ったときに「企業の歴史」を伝える大切さも感じている。現在、店舗が日本、カナダ、インド、インドネシア、スリランカと拠点が国をまたいで離れたことで情報の共有、思いの共有が以前よりも困難になっているからだ。もちろん常日頃の情報共有も大切だが、根幹にある判断基準がぶれてしまっては意味がない。その判断基準となるのは、これまで会社がどういった思いで成り立ち、社会にどんな価値を残してきたのかという事実も大きい。

 また、インターンシップとして受け入れる学生が増えたことも理由の一つにある。全国的に見ても学生のインターンシップ参加率は年々増加し、コンサルティング会社ディスコ(東京都文京区)によると、17年卒者では7割を超えるという。インターンはあくまで就業体験の場であり実際の仕事を体験してもらうことが目的の一つでもあるが、その経験を通じて「なんのために働くのか」という日々の仕事の先にある成し遂げたい目的を見いだせるよう導くことも重要だと考えている。

 企業の成り立ちと思いの根幹にあたる経営理念は経営上の重要な判断のよりどころとなるだけではなく、会社の雰囲気や文化を創り、全従業員の考え方、そして行動の基盤となっている。その思いを基にどんな歴史を歩んできたのかを伝えることで仕事を通じて企業として社会にどんな価値を残しているのか感じてもらえることだろう。

 ただ目の前にある仕事をこなすことではなく、その先を見据えた就職活動にぜひつなげてほしい。歴史を学ぶということは、政治も経済も社会も文化も芸術も、その国、その人、その会社その地域のすべてを学ぶということであり、国際ビジネスの場で生き抜いていくのに必要不可欠な要素になるに違いないと確信している。

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【プロフィル】福原裕一

 ふくはら・ゆういち 1999年にKUURAKU GROUPを創業。首都圏に飲食店を20店舗、カナダに3店舗、インドに3店舗、個別指導塾を2校舎展開。アルバイトによる経営改善活動の発表会など独自の若手社員育成法が注目される。49歳。横浜市出身。