ITが「働き方改革」先導 AIで離職予想や労務管理、VR活用も

 
IT環境の整備により、在宅で働く日立ソリューションズの社員(同社提供)

 電通や三菱電機の違法残業の発覚や安倍晋三政権の政策方針を背景に「働き方改革」への労使の意識が高まる中、労働環境の改善に最新のITを活用する動きが広がってきた。人工知能(AI)が社員データを分析し、生産性の向上やメンタルヘルス管理まで支援するサービスも登場。先端テクノロジーを駆使した取り組みがどこまで新たな働き方につながるか、注目だ。

 科学的に成果追求

 「女性比率が全体平均より高く、飲み会など懇談会の回数が多い」

 日立製作所子会社の日立ソリューションズが社内で行った実証実験で、AIがはじき出した「パフォーマンスの高い組織の特徴」だ。

 実験に活用したのは同社が昨年12月に発表した人事支援のIT「組織パフォーマンス診断サービス」。パフォーマンスを「1人当たり利益率」と定義し、膨大な人事・労務データから、業績やコスト、モチベーションなどと相関の強い指標などを特性としてAIが抽出したり、過去の実績から成果を生む可能性を予測。「従来は勘と経験で推測していた組織の成果を、科学的に割り出せる」(オフィスマネージメントソリューション本部の橋爪徹雄部長)という。データからストレスケアの必要な社員をAIが予測し休職者を抑制するサービスなどとともに、最新の人事労務システムとして企業向けに2月から順次販売する。

 AIは離職防止にも一役かっている。都内のある飲食店では、出退勤のタイムカードを押す際に、社員がスマホやタブレットで「自撮り」をする。この顔写真の「口角」「目尻」の位置の下がり方をAIが診断。2万人の顔写真の学習データを基に、出退勤時刻の変化と併せて数値化。数値の変動で「離職傾向」を察知できるという。

 これは人材サービスベンチャーのネオキャリア(東京都新宿区)が提供する、勤怠管理システム「ジンジャー」笑顔判定機能だ。サービス開始からすでに導入企業は約2000社に上っている。

 AIによる労務管理には抵抗もありそうだが、同社経営企画部の小口敦士マネジャーは「人にもAIにもそれぞれ強みがある。人とデータのかけ算で最適な労務管理ができればいい」と話す。

 人材難に危機感

 AIによる労務管理に注目が集まっている背景には、人材難への企業の危機感もある。国立社会保障・人口問題研究所の調査では、生産年齢人口(15~64歳)は2013年時点で約8000万人だったのが、27年には1000万人減少するとの試算がある。

 限られた人数で結果の最大化を図ること、過重労働のストレスによる病休者や離職者を減らして人材を確保することが企業にとっては不可避となっている。その点、働き方を抜本的に見直す際に最新のテクノロジーは心強い味方になる。

 働きやすい環境づくりにVR(仮想現実)技術を取り入れている例もある。ITインフラを手掛ける日商エレクトロニクスだ。「仮想化デスクトップ」と呼ぶ技術を使い、会社のコンピューター上の機能をスマートフォンやタブレット、自宅のパソコンなどあらゆる情報端末で使えるようにした。

 在宅勤務はもちろん出張先や移動中でも、インターネット環境さえあれば、社内同様の作業ができるという。仮想化デスクトップは端末にデータが残らないため、紛失リスクにも備えられるという。

 同社は仮想化デスクトップ導入などで時間と場所を選ばない働き方を推進。これらにより2015年度は前年同期比で残業代が18%減少。その分は賞与に上乗せした上で、1人当たり営業利益は129%増となった。これについて、渡邊仁志人事総務部長は「働き方の見直しで社員の満足度が上がった。仕事の質が高まり、業績改善にもつながっている」と分析する。

 人口減少時代は、限られた人材の生かし方の巧拙が企業業績の明暗を分ける。AIやVRといった最新技術と人材の最適な組み合わせは、働き方改革の一つの重要なカギとなりそうだ。