ジャーナリスト・兼高かおる氏「わたくしたちの旅のかたち」

著者は語る

 ■自分の目で見ることの感動を語る

 キリスト教系女学校の英語教育を受けたおかげで、戦後はRTO(進駐軍鉄道輸送司令部)を手伝い、食糧をいただいたりしました。初めての外国旅行は、個人旅行が自由化される以前の1954年のことでした。戦後のモノのない時代にロサンゼルス市立大学に留学し、豊かなアメリカ文化に触れました。帰国後は外国人を英語でインタビューする仕事に就き、外国人記者クラブに出入りしていました。そこで話題になっていた、スカンジナビア航空主催の「世界一周早回りコンテスト」に挑戦し、73時間9分35秒の新記録で帰国したら有名人になっていました。

 これを機に、ラジオで海外生活経験者をリポートする仕事、続いて世界各地を旅するテレビ番組のお話をいただきました。「兼高かおる世界の旅」は、59年から90年まで31年続きました。その間1年の半分は海外ロケ、帰国すると徹夜で編集作業です。取材は撮影クルー2人と私だけですので、プロデューサー、ディレクター、リポーター、ナレーターの4役を務め、取材中はノーメーク、昼食抜き。編集の都合上、1カ所を同じ服で通しました。

 海外取材など前例のない時代、取材の許可や謝礼の有無などすべて自己流。南極点や北極点など辺境の地、共産圏、世界屈指の文化遺産など150カ国を訪ねましたが、テーマは常にその地に暮らす人々。バーで情報を集めたり、カフェで会った人の自宅に招かれたり。ケネディ米大統領はじめ、チャールズ英皇太子、中近東の王様など多くの要人にも会いました。(著名画家の)サルバドル・ダリ宅訪問には4時間も遅刻、アフリカでは酋長(しゅうちょう)の妻にしてやるといわれて慌てて失礼したこともありました。

 取材は想定外の連続ですが、私は困難に出合うと燃える性格。自分の目で見て感動し、それを言葉で伝える仕事に夢中でした。そんな旅への思いを同世代の作家、曽野綾子さんと語りあったのが本著です。私たちの体験をプロローグにご自分の旅をプロデュースしてください。(談)(1404円 秀和システム)

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【プロフィル】兼高かおる

 かねたか・かおる 1928年生まれ。米ロサンゼルス市立大学留学後、フリージャーナリスト。テレビの海外取材番組「兼高かおる世界の旅」は長寿番組となり、多くの視聴者に親しまれた。91年紫綬褒章受章。現在、日本旅行作家協会名誉会長、淡路ワールドパークONOKORO「兼高かおる旅の資料館」名誉館長、(東京都)港区国際交流協会会長。著書に「私の好きな世界の街」ほか。