日本発の「完全栄養食」が脚光 健康寿命を伸ばすカギとなるか
「完全栄養食」という言葉を耳にしたことはあるだろうか。人間が生きるために必要な栄養素がすべて入った食品のことである。IT企業が集まる米国シリコンバレーで生まれ、食事をする時間もないほど忙しいエンジニアのために、スピーディに栄養を摂取できる食品として開発されたものだ。
代表的な食品が、ソイレントというドリンクである。大豆をベースに、ビタミン、ミネラル、脂肪、炭水化物、タンパク質を配合しており、1瓶に人間が1日に必要とする必須ビタミンとミネラルの20%が含まれている。このドリンクはブームになり、日本から購入する人も現れたほどである。その後、日本でも同様の完全栄養食ドリングが発売され、徐々に普及している状態だ。
そんな中、日本で画期的な完全栄養食が開発され、話題を集めている。それは、ドリンクではなく、パスタである。
完全栄養食ベースパスタは、全粒粉の小麦をベースに、もち米やビール酵母、チアシードなどを練り込んだ生パスタ。麺の種類はタリオリー二という平打ち麺である。特徴は、1人前(145グラム)の中に、ビタミン、葉酸、亜鉛、マンガン、鉄、食物繊維、カルシウム、タンパク質など、厚生労働省が定めた日本人の食事摂取基準に基づいた、1食に必要な31種類の栄養素をすべて配合している点だ。つまり、このパスタを食べれば、1食分の栄養摂取は完璧というわけである。加えて、一般的な生パスタと比べ、糖質は半分、カロリーは20%オフ、タンパク質を2倍近く含んでいる。
3月にアマゾンで販売を開始したところ、4日で2500食が完売し、たちまち販売ランキングの1位を獲得したほどの売れ行き。今は、同社のWEBサイトで定期購入ができる。
「元々、完全栄養食は(米国の)シリコンバレーで普及しましたが、ドリンクのため一般の方々が食事の代わりにするのは難しいです。ドリンクは便利ですが、その分食事の満足感が少ないです。従来の食習慣に従って食べるのが一番健康的だと実感したので、”主食“であるパスタの開発に取り組んだのです」と話すのは、ベースパスタを開発したベースフードの社長・橋本舜さん。
大学卒業後、大手IT企業に勤務し新規事業を担当していた橋本さんは、業務を通じて日本人の健康寿命延伸やヘルスケアに関わる事業を手がけたいと思うようになった。自身も仕事が忙しいために外食に頼る生活を続けており、疲れやすかったり風邪が長引いたり不調を感じていたという。そういったこともあり、食を通して人々の健康を支えようと、独立して起業。栄養学者や管理栄養士の助言を受けながら、完全栄養食パスタの開発に取り組んだ。
ベースパスタを購入しているのは、20代から30代のビジネスパーソンが多い。仕事が忙しいため、つい外食やインスタント食品で済ませてしまう層である。また、通常のパスタに比べてローカロリーかつ低糖質なので、ダイエット中の女性にも人気がある。
「完全栄養食と聞いて薬品の味がするのかと思っていたのですが、原材料の自然本来の味がしておいしい」「2分でゆでられる生パスタなので、すぐに調理できで便利です」
購入者からは、こんな声が届いている。筆者も自宅で調理して食べてみたが、もっちりと歯ごたえがあり、全粒粉パスタのような素朴な味がして、おいしかった。
このパスタはレストランでも使用されている。東京・三軒茶屋にあるイタリア郷土料理店「ペペロッソ」はそのひとつ。同店は、イタリア全州の個性的なパスタが食べられる店で、食べログアワードでブロンズ賞を獲得した名店である。ベースパスタを使った「タリオリーニ カッチョエペペ」というメニューは、チーズと胡椒を使用し、麺の風味を活かしたシンプルな料理だが、絶品のおいしさと評判である。
「イタリアは、州によってそれぞれパスタの種類が違うのですが、ペペロッソさんはそれらをすべて店で手打ちしている、日本でも珍しいレストランです。シェフにベースパスタを試食してもらった際、イタリアらしい味がすると嬉しい感想をいただきました」
ベースパスタを導入するレストランは、徐々に増えている。
「完全栄養食のドリンクやサプリメントなどがありますが、人間にとって噛んで消化することは、維持する必要のある大事な機能です。ですから、しっかり噛んで食べられる主食として開発しました。きちんと食事をとることで得られる、精神的な健康も大事です。考えてみれば、米や麺などの主食は、長い歴史の中で、ほとんど変わっていないんです。でも今は、カロリー摂取だけでなく、栄養バランスが大事であることが分かっています。私はそこをイノベーションしていきたいと思っています」
今後は、パスタに限らず、パンや他の麺などでも完全栄養食を開発していく構想だ。「健康を当たり前にする」というビジョンに掲げるベースパスタ。日本生まれの完全栄養食がどう展開していくのか興味津々である。(吉田由紀子/5時から作家塾(R))
《5時から作家塾(R)》 1999年1月、著者デビュー志願者を支援することを目的に、書籍プロデューサー、ライター、ISEZE_BOOKへの書評寄稿者などから成るグループとして発足。その後、現在の代表である吉田克己の独立・起業に伴い、2002年4月にNPO法人化。現在は、Webサイトのコーナー企画、コンテンツ提供、原稿執筆など、編集ディレクター&ライター集団として活動中。
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