「事務所の所有物のよう…」芸能人らフリーランスの労働問題にメス 法律の空白地帯解消へ

 
フリーランスの法的保護は空白だった

 芸能人やスポーツ選手、IT業界のクリエイターら企業と雇用契約を結ばずに働くフリーランスの労働環境改善に向け、公正取引委員会が独占禁止法の適用も視野に実態調査に乗り出した。力関係の差を背景に、企業側が人材を不当に囲い込むような契約や慣行はないか。公取委は、労働基準法などの保護を受けにくい「法律の空白地帯」の解消を目指す。(大竹直樹、山本浩輔)

 「事務所の所有物」

 「夢や目標のため我慢しなければいけないこともたくさんあると思うが、事務所と私たちのパワーバランスはおかしい」。映画などで活躍する女優の志村りおさん(31)は以前所属していた芸能事務所で「突然、『この仕事をやれ』といわれるなど事務所の所有物のような扱いだった」といい、辞めたいと思ってから1年以上も辞められなかった。

 芸能人の権利をサポートする日本エンターテイナーライツ協会(ERA)共同代表理事を務める河西邦剛弁護士は「業界では事務所優位、タレント不利の契約が蔓延している」と指摘する。契約解消後も一定期間芸能活動ができなかったり、芸名が使えなかったりする契約も少なくない。

 NHK連続テレビ小説「あまちゃん」で主人公を演じた女優、のん(能年玲奈から改名)さんや、女優の清水富美加さんら、所属事務所との対立が表面化するケースも相次ぐ。

 女優の田中絵瑠さん(24)は「以前所属していた事務所とつながりのあるプロデューサーから圧力がかかり、仕事に影響したこともある」と打ち明ける。

 優越的地位の乱用

 事務所側が一方的に所属タレントに不利になるような条件を設定することは、強い立場を利用し取引相手に不利益を強いる独禁法の「優越的地位の乱用」に抵触する可能性がある。公取委が認定すれば、排除措置命令や課徴金納付命令の対象にもなる行為だ。

 ERAの立ち上げを呼び掛けた佐藤大和弁護士は「芸能人は事務所と対等の関係にあるはずなのに、実際は過度に制限された契約が多い」と指摘する。

 企業と雇用契約を結ぶ従業員は労働基準法などの労働法で保護されている。一方、フリーランスの人は企業と対等な関係で仕事を請け負う契約を結んでおり、独禁法の対象となるが、労働分野への同法の適用はこれまでほとんどなかった。

 公取委の杉本和行委員長は「芸能事務所と芸能人の関係やプロスポーツ界における選手と球団の関係についても、独禁法を適用すべきなのかどうかという議論があるべきだったが、これまでグレーエリアで、対応していなかった」と話す。

 欧米では監視強化

 近年はインターネットで仕事を受注する「クラウドソーシング」を活用し、仕事を個人で受注するフリーランスの人も増えている。特に、IT分野のコンピュータープログラマーやイラストレーターなどだ。

 こうした特殊技能を持つ人材の獲得競争が熱を帯びつつあり、欧米ではすでに米連邦取引委員会(FTC)など当局が人材獲得競争によるカルテルや不公正な取引に目を光らせ、ガイドラインも作成している。

 公取委でも、フリーランスの人が働きやすい労働環境の整備に向けて動き出し、8月4日には人材と競争政策に関する検討会が初めて開催されることになった。月に1回程度議論し、年度内に検討結果を報告書にまとめる方針だ。

 公取委は今後、業種を特定せずに契約実態を調査し、どういったケースが独禁法に抵触するかどうかなどの課題を整理する。

 独禁法に詳しい平尾覚弁護士は「公取委も欧米の当局と同じ問題意識を持っている。政府の『働き方改革』も踏まえ、フリーランスの人材をどう守っていくかが問われている」と指摘している。

 ■独占禁止法

 公正で自由な競争を促進、事業者が自主的な判断で自由に活動できるようにし、消費者を守ることを目的とした法律。(1)市場支配力を行使し他の事業者の活動を排除したりする「私的独占」(2)事業者が共同で取り決め、競争を制限する「不当な取引制限」(カルテル・入札談合)(3)優越的地位を不当に利用し相手方の競争機能を制限する「不公正な取引方法」-を禁じている。公正取引委員会は独禁法の目的達成を任務として設置された行政機関で、委員長と4人の委員で組織され、独立して職権を行使する。