若手社員に大人たちが「三年は辞めるな」という理由 “転職したい症候群”が読むべき『社畜上等!』

 
『社畜上等! 会社で楽しく生きるには』(晶文社)

 「転職したいわ~」。社会人三年目の私の周囲には「転職」というマジックワードが日々飛び交っている。モーレツに、ときには腐りながら業務に食らいつく一年目。なんとなくペースを掴み、上司の軽口にも付き合い、取引先との“ツーカーな仲”を初めて体感し、小さな充足を感じる二年目。

 三年目。まだ“就活名残”で意識が高い若者は立ち止まる。「大学の同期はあの会社で新規プロジェクトにアサインされた」と焦り、ルーチンワーク漬けの「圧倒的に成長できていない自分」にがっかりし、「同世代のマーケターがセミナーに登壇」していることに「もう自分が若手では許されない」ことを悟り、早く経験とスキルを積まなければという衝動に駆られる。そして自分の会社を大局的に見つめ、「こんなノロマな会社にいたらダメだ」「もっと成長できる場所がある」と転職を考える。私もそんな“転職したい症候群”だった。

 だが、この三年間、あまりにも多くの大人たちに「三年は辞めるな」「今の会社にいろ」と助言され職場に残った。それが、常見陽平氏の著書『社畜上等! 会社で楽しく生きるには』(晶文社)を読み、これで良かったのだという確信に変わった。

 転職を否定する訳ではないが、「会社が嫌い」「転職したい」と悩む20代若者に手に取ってもらいたい一冊だ。(SankeiBiz 久住梨子)

※本稿末尾に、本書『社畜上等! 会社で楽しく生きるには』の読者プレゼントについてお知らせがあります。ぜひご覧ください。

「希望外の仕事をやらされる」問題にどう向き合うか

 社畜上等!--ちょっとトゥーマッチなタイトルだが、なにも社畜奨励本ではない。むしろ会社に不満ダラダラのサラリーマン諸君に向けて、「クサクサしても仕方ないから、企業に属する『社畜』ならば、現状をポジティブに捉えてうまく会社を使いこなす社畜たれ」という開き直りのススメだ。

 例えば、我々社畜の宿命である「希望外の仕事をやらされる」問題。大望ある若者はどう向き合うべきか。

 「希望の部署じゃないとヤダ!」なんて、単なる若者のわがままのようだが、常見氏は「この批評は実は日本企業の雇用形態の問題を的確に表現」しているという。新卒の、とくに文系の正社員総合職は、往々にして入社後に配属部署が決まる。つまり大半が何をやらされるか分からないまま入社するのだ。このご時世に自主的にキャリア形成できないという論点も孕み、これは日本の労働現場の問題としてあげられる。

 しかし、常見氏は「悪だと言い切れるか」と問う。会社の醍醐味とは、この仕事を「やらされる」という行為が個人のキャリアの幅を広げることだといい、例としてプロレスラーの佐山サトル氏をあげている。

 佐山氏は、人気マンガ『タイガーマスク』を現実にデビューさせるという企画を持ちかけられ、一度は拒否するも何度も頼まれ、一回だけなら……という条件でやむなく虎の仮面をかぶることになる。その衣装はまさに「布切れ」同然。だが、この一回きりの約束だったタイガーマスクは、一夜にしてスーパースターになった。言うまでもなく、佐山氏の人生とプロレス界を大きく変える、大ブレークのきっかけになったのだ。

 詳しくは本書に譲るとして、無茶振りのような仕事も不本意な異動も、ビジネスパーソンとしての総合力を底上げするチャンスだ。自戒を込め、若者は“○○のプロ”として早く成長したいと願うものだが、スキルの幅を広げるうってつけの機会ぐらいに考えて、どっしり構えてもいいのかもしれない。

そんなに転職したいなら「エア転職」すればいい

 口を開けば「転職したい」と繰り返す人の中には、転職に振り切れない理由がある。それは「今の自分だと受からなさそう」だとか「今の会社は給料だけはいい」といったことだ。

 そこで常見氏は「エア転職」を勧めている。転職活動のようなものをやると、自分の強み・弱み、現在の職場の長所・短所、世の中の現実を知ることができるという。

例えば、人材紹介会社に登録してみる。しかも複数のサービスに登録することで、各社の強い分野をマークし、より相性の良いカウンセラーを探せるようにしておく。

 人材紹介会社への登録で得られる最大のメリットは、「履歴書・経歴書を書くことでこれまでの経験を棚卸しし、自分を見つめ直すことができる」「カウンセラーとの面談によって、自分の市場価値や課題を知ることができる」という二点だ。どんなに文章が上手な人でも、カウンセラーの手にかかれば職務経歴書なぞ2、3回はダメ出しされる。しかも他業界の人にも理解できるよう書かなくてはならない。面談でも合格可能性のある企業名を提示されて「え…自分ってこの程度なのか…」と社会人としての自分のレベルを思い知らされることもある。

 他にも、本書ではいくつかの「エア転職」の方法を紹介している。このエア転職では自分の市場価値のようなものはもちろん分かるが、実は「今の仕事や職場のリアルな姿とそのよさ」が可視化されると常見氏は指摘する。

 「業界・企業の先行きには不透明感があったとしても、より不安な転職をするよりも、今の業界・企業をなんとかしようというマインドで働いた方がずっと得かもしれません」(常見氏)

「三年は辞めるな」の真意

 さて、ここでは一部しか紹介できなかったが、本書では他にも「会社とはビジネススクールである」「学歴コンプレックスは妄想か」「会社の中での怒り方を身につける」「理不尽だと思ったら、その合理性を考えてみる」など興味をそそる項目が並んでいる。

 冒頭に戻るが、私が入社したての頃、多くの大人たちが「三年は辞めるな」と助言した理由がこの本を読んで分かった気がする。常見氏がよく引用する、編集者・末井昭氏の「若い奴は何かをやりたい、やりたいと言うが、実はやりたい衝動があるだけであって、やりたいことなど何もないのだ」という言葉がある。大人はこれを知っているからこそ、新社会人に「今はこの会社にいろ」と言うのだと思う。

 「三年は辞めるな」の真意は、今の職場を最大限に利用しろということだろう。「会社が変わらないなら会社を変えるしかない」と、つい前のめりになってしまう我々若者だが、自分のマインドチェンジだけでも今の仕事は良くなるかもしれない。それでも「今の会社が諸悪の根源!」と言う人こそ、騙されたと思って『社畜上等!』を読んでいただきたい。

 まぁ、こんなエラソーに言っている私もあと一カ月半で四年目だ。さて、人材紹介会社に登録するか。

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受付期間 :2018年2月28日(水)17:59まで

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SankeiBizで連載中の【常見陽平のビバ!中年】もご覧ください。更新は隔週月曜日。