【ローカリゼーションマップ】思わず「これは面白い!」…“理系のイメージ”覆した東工大生たち
【安西洋之のローカリゼーションマップ】「この科学技術が世の中に出ることが、本当に良いことなのか?」「社会で問題になった科学技術をひくにひけないと立ち止まるのではなく、ひきやすくするシステムを考えるのが必要では?」
10月28日、東京工業大学で開催された「未来社会DESIGN機構」キックオフのイベントに参加した。冒頭の発言は複数の学生のものだ。
同機構が中心となり、学内だけでなく学外の人たちと協力しながら「未来社会像」を作っていく。イベントには大学生・教職員・高校生・一般社会人など100人以上が集まり、「ボーダーを超える」をテーマに話し合った。
進行として、登壇した1人の研究者が10分間、自分の研究課題で問いをたて、会場の参加者が4人で一組になり意見やアイデアを出していく。そしてまた他の研究者が別の問いをたてるのだが、その時話し合うグループは別のメンバーで構成する。
課題は通信技術・環境・創薬の3つだったので、合計9人の異なる人たちと顔を合わせたことになる。そして1つのテーマの議論の後、他のグループの意見が発表される。したがって冒頭のようなセリフは、特に一部の学生の特別な意見ではなく、学生の間でふつうにあるとの印象をもった。
学生たちから「浮ついた」アイデアばかり出ると思っていたぼくは、「これは面白い!」と思わず呟いた。
他方、教員は既に世の中に「(研究者の意思とは関係なく)出てしまった」社会的に問題ある技術に対して、どちらかといえば苦渋の表情をみせざるを得ない。結果として、冒頭のようなセリフが瞬間的には出にくい。
良くも悪くも経験の有無が発言のスピードと方向を決めている。
この日の全体のプログラムはある技術的課題をベースにして未来社会像を「ボーダーなく」考え、討議するよう設計されていたように見えたが、実は学生はそういった思惑とは別の方向を眺めている。
いわば倫理や意味の問いかけに視線が注がれている。そして目の前にある問題解決のための科学技術の適用といった、マイナスをゼロにするタイプの取り組みもさることながら、ゼロからプラスを生むことに関心が強い。
ぼくの目にはそう映った。
そしてふと思った。文系の学生たちは、ここまで自分の勉強している内容と社会を包括して見ていないだろう、と。理系の学生は、自分の研究テーマが社会と対峙するかもしれないことを猛烈に意識している。
これはぼくが今まで何となく抱いていたイメージと逆だ。
文系の学生は社会とのかかわりに敏感であり、理系の学生は「オタク」的でやや社会との距離をもつタイプが多い。ぼくのこれまでの人との付き合いから、そう思い描いていた。
しかしながら、それはまったくの思い違いだったらしい。いや、少なくとも東工大の学生については、思い違いであった。リアルな社会に向き合う覚悟がある。
しかも科学技術のネタありきでビジョンを描くのではなく、できるだけゼロのところからビジョンを描き科学技術を「のせる」との姿勢が垣間見られる。
意外な展開である。
未来社会DESIGN機構のメンバーはプロジェクト趣旨説明において、この組織は東工大の為ではなく社会に開かれたものである、ということを何度か強調していた。「学外の知見を大学の利益のためのみに使うのか」との批判を避けるための予防線だろう。
しかし、ワークショップに外部の人間として参加しながら心に浮かんできたのは、そういう予防線のセリフが如何にも空虚にみえる風景だ。
言うまでもなく、いずれにしても批判が生じる、という事態の到来ではない。そんな予防線など取り越し苦労にしか見えない、という意味だ。
他方、「そうは言うものの、これは楽観的な感想に過ぎるだろうか」との思いもよぎる。学生も社会に出て「起こりうる社会問題を想定できないまま、世に技術を出してしまっても自己保身に走らない」とは断言できない。
自分自身を律する意識の礎をどれだけつくっていけるか。あるいは、どんな状況に陥っても「礎を踏み外さない」耐性をどうもつか。周囲から何度、揺さぶりをかけられても、「いや、やはりここは譲れません」と自身の美意識からはっきり言えるか…という疑問は残る。
およそ「ボーダー自体を積極的に消し去る」と称賛をもって迎えられやすい。偏見や先入観からの脱却である。しかし「ボーダーとはネガティブな存在である」と一方的に思い込むのも、ボーダーの穴に嵌りこんだ証である。
「ボーダーを自由に使いこなす人」が増えるといいな、と若い世代に期待したい。(安西洋之)
【プロフィル】安西洋之(あんざい ひろゆき)
ローカリゼーションマップとは?
異文化市場を短期間で理解するためのアプローチ。ビジネス企画を前進させるための異文化の分かり方だが、異文化の対象は海外市場に限らず国内市場も含まれる。
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