当事者以外は危機感なし、現場感覚とズレ 大人数の会議など辞めてしまえ!
【ビジネストラブル撃退道】なぜか複数の案を出させようとする発注主は多い。これは本当に無駄である。私は広告代理店にいた時期があるが、大抵の場合「A案、B案、C案」という言い方か、「松竹梅」という言い方をし、どんな企画であろうが3つの案を提出する慣例があった。これらの分類は、金額の多寡ないしは「攻める企画・保守的な企画」に応じたものである。(中川淳一郎)
この場合、大抵は「B案」か「竹」という無難なものが採用されるものである。本当は「A案」か「松」をやった方がいいと提案者側は分かっている。ないしは、ドーンと手を抜く&カネをケチって「C案」か「梅」がいい。だが、クライアント側の社内で検討するにあたり、上にあげていくにつれ、段々と無難なものが支持されるようになり、結果的には「B案の中」「竹の中」が採用されることとなる。
提案する側は、「これしかない!」という考えで渾身の1案を作るのだが、クライアントと直で接する営業が「1つだけだと本気だと思われないんだよね」や「やっぱり選択肢を用意する方が誠意がある対応だと思うよ」などと言い、結局力の入らない2つのアイディアを追加するのである。
ビジネスなんてものは結論はないのだ。結局何人ものハンコを押してもらって決済をすることは、「より無難な方向に持っていく」ことでしかない。ビジネスというものは、当事者性が高い現場の人間以外、実際のところそれほどの危機感は持っていない。もちろん、統括する部門の業績が悪かったら1億円超の役員報酬がパーになってしまうかもしれないお偉いさんも真剣かもしれないが、たかだか広告代理店やシステムベンダーから来た「松竹梅」のプランで何を選ぶかなんてことまで気が回るわけがない。
私も何度もプレゼンには参加したが、役員クラスの人間がその可否に参加しても現場感覚とはズレていることが多い。むしろ、より年度末のボーナス査定が「A」か「B」かが気になる現場同士で談合して最適なプランを作ってしまう方がより成果は上がるのである。だからこそ、大企業においては1億円以下の案件についてはいちいちお偉いさんの意見など不要だとつくづく思う。
ここで一つ提案したいのが、「3人以上の会議など辞めてしまえ」ということだ。さらにいうと、経営にかかわる判断以外は現場とその上司1人だけで決めてしまえ、ということである。これまで社会人として21年間仕事をし、無数の会議に参加してきたが、4人以上いる会議の生産性が低いことったら!
いや、お偉いさんがとんでもなくクリエイティブな方であるのならば、是非とも参加してもらいたいし、むしろ中間の人間などすっ飛ばしてその方に参加してもらいたい。これこそ外注たる我々にとっての最良の仕事の進め方である。
私自身、数字の報告会や、顔合わせ以外で4人以上の会議などフリーランスになって以来一度もない。いや、一度もない、はウソだ。某社の名刺を持ってその会社の社員として振る舞うプレイをした際は無駄に15人ぐらいいる会議には参加したことはある。だが、自分の権限で出る会議は4人以上はない。
昨今の仕事は合理的なIT系の企業との会議が多いのだが、お互いに貴重な時間を使って会議をするのであれば、最終決裁者が3~4人集まって決めるだけでいいのである。そこで決まったことが最終的なものであり、後はその3~4人がケツをまくればいいだけ。
大人数の会議の問題点というのは、「責任を取らないバカが出る」ことに他ならない。誰もが自分こそが失敗の元凶だとは思いたくないもの。だからこそ、大人数で会議をし、責任を分散させてしまうのだ。場合によっては、「いいですね」と一言言っただけで責任を負わされることになってしまう。「お前があの時『いいですね』と言ったからあの場はあの流れに移ったんだ!」なんて言うバカ上司もいるかもしれない。
とにかく、小物ばかりだと会議の人数は大人数になる。その仕事をやるか否かは、会議に参加する人数で決めてしまっていい。初回の会議で12人ぐらいでもいようものならば、上司ないしは部下に対し「オレはここ、いないでも大丈夫なので頼みます」と言ってさっさと抜けてしまおう。
サラリーマンならば自身の出世、フリーランスならば自身のカネの稼ぎ及び「責任を無駄に押し付けられない」ためにも初回の会議の参加人数をまずは把握し、あまりにも多過ぎるようだったら撤退した方がいい。その後も無駄な会議と責任の押し付け合いが発生するはずだ。
あと、会議の参加予定人数が多過ぎると遅刻するバカが必ずいる。本来30分で終わるものが1時間20分かかるのも大人数会議の弊害である。
冒頭の「松竹梅」の企画を出させることについても、様々な考えを持つ人間の顔が浮かび、各人が好きそうなものを出そうとするが故に3案出させるのである。渾身の1つを基にチューンナップさせる方が本当はいいに決まっているのだ。それなのに「A部長はこう思うかもしれないけど、B次長は別の意見もあるかもね……」なんて思い、とりあえず下請けに「松竹梅」を出させる。
ムダムダムダーーーーーー! とにかく仕事を完遂させるには「人数は少なく」「会議は極力なくす」でOKだ。
【プロフィル】中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
PRプランナー
1973年東京都生まれ。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『謝罪大国ニッポン』『バカざんまい』など多数。
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【ビジネストラブル撃退道】は中川淳一郎さんが、職場の人間関係や取引先、出張時などあらゆるビジネスシーンで想定される様々なトラブルの正しい解決法を、ときにユーモアを交えながら伝授するコラムです。更新は原則第4水曜日。
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