【ローカリゼーションマップ】デザイン文化を構築するリーダーシップとは? 国ごとに異なる“成熟度”

 
ルータの博士号を祝う審査員や仲間たち

 先月後半、リトアニアのカウナス工科大学デザインセンター長のルータに対する博士論文審査会を見学した。無事、彼女はミラノ工科大学で博士号を取得したのだが、彼女の論文を読んで思うことが多々あった。(安西洋之)

 ルータについては、これまでに2回書いている。「リトアニアのデザインを日本で語る意義 ビジネスパーソンの好奇心も引き出す」と「審美性だけでなく『美意識』を育てよ デザインの考え方で社会変革目指すリトアニア」である。

 彼女はバルト三国の1つリトアニアで生まれ育った人であり、リトアニアは1990年に旧ソ連から独立して以降、いまだ新しい社会をつくるのに楽ではない道程を辿っている。

 ルータは母国のためにどういう貢献ができるか?という自問自答から、毎週博士課程の授業のためにリトアニアからミラノに通う生活を数年前に始めた。

 リトアニアはEU加盟国であるが途上国としての位置づけにあり、そこでルータは自身の生きる道をも探っている。

 その結果、論文では、社会を変革していくにあたりデザインの活用が有効であり、デザインのエキスパートではない人間がデザイン文化にどう関与していくかを検証している。

 とても中身の濃い内容だ。何よりも研究に力があり意味がある。

 見方を変えれば、デザイン文化があまりない国に生まれたがゆえの貴重な研究成果である。デザイン文化の基盤がそれなりにあるイタリアは、研究手法を学ぶには良いが、デザイン文化の構築の実験舞台には相応しくないかもしれないからだ。

 ところでリトアニアをめぐり、ぼくがよく引用するエピソードがある。

 ルータのミラノ工科大学の指導教官から直接聞いた話だ。彼は世界各地から留学してくる学生や、自ら各国に出かけて行う授業で学生を前にして、決まって尋ねる質問がある。

 「君たちが美しいと思うものを挙げてくれ」

 中国であろうとインドであろうと、あるいはブラジルであろうと、8割の学生は自然の美しさを称える。そして残りの2割は、さまざまだ。そこで、彼はぼくにこう話した。

 「リトアニアの大学の授業で、1人の女子学生がフルメーキャップに高いヒールが美しい、と言ったのだよ。こういう声は、デザインを学ぶ西ヨーロッパの学生からはでない」

 ぼくは彼のこのコメントには少々意見があるのだが(化粧やファッションを下に見ていないか?)、これがデザイン文化定着の度合いを指している現実であることも確かである。

 より成熟した文化では、外面的な美から内面的な美へ評価軸が移りやすい。またファッションブランドも他人が一見してすぐ分かるようなロゴのついたものは身につけず、分かる人には分かる質のよい服を好む。

 他方、ルータの研究課題は、デザインのエキスパートではない人たちが、デザイン文化に接してどのようにそれを使っていくかであり、ここで述べている美しさの話とは距離がある。

 それでもデザインから審美性や美意識を落としたところで、一企業ではなく国としてデザイン文化が根付くとはどういうことかとのイメージがしづらい。

 先日、ある人と会っているとき、「欧州の某大手自動車メーカーのデザインのトップが、料理をデザインとは呼ばせない、と私の前で豪語していました」と話してくれた。

 カーデザイナーが言いそうなセリフだと思った。何をエラソーにと思う人も多いだろう。

 ただ、「デザインの意味が変わってきたのだから、こういう物言いは古臭い」と一蹴するのも違うと感じた。このカーデザイナーがつくるモノには、考え抜いた跡が見える。

 そこには言ってみれば「言語化されて解像度が上がった」と称賛するレベルの何十倍か何百倍かの緻密性がある。だから、それだけの自負がある。

 この点は外せない。

 ルータは美しい女性であり、服もお洒落だ。指導教官曰く「リトアニアでルータほどファッションセンスのよい女性を見たことがない」。

 デザイン文化を作っていくリーダーシップとは?

 博士論文審査会は、このテーマを多角的に考えさせてくれる契機となった。

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【プロフィール】安西洋之(あんざい・ひろゆき)

モバイルクルーズ株式会社代表取締役
De-Tales ltdデイレクター

ミラノと東京を拠点にビジネスプランナーとして活動。異文化理解とデザインを連携させたローカリゼーションマップ主宰。特に、2017年より「意味のイノベーション」のエヴァンゲリスト的活動を行い、ローカリゼーションと「意味のイノベーション」の結合を図っている。書籍に『イタリアで福島は』『世界の中小・ベンチャー企業は何を考えているのか?』『ヨーロッパの目 日本の目 文化のリアリティを読み解く』。共著に『デザインの次に来るもの』『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか?世界で売れる商品の異文化対応力』。監修にロベルト・ベルガンティ『突破するデザイン』。
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異文化市場を短期間で理解すると共に、コンテクストの構築にも貢献するアプローチ。