【クルマ三昧】相次ぐ自動車事故…レースカーが車の理想的な操作方法を考えるカギに?
クラッチは足で操作せず
高齢者のブレーキペダルの踏み間違いに端を発した「ペダル操作議論」は、白熱したまま沈静化の気配がない。それも道理で、こうしている間にも傷ましい事故は起きている。犠牲者が増えている。議論白熱、アイデア百出なのは、一刻も早い決定的な解決策を求めているからである。
先日、私がここで発表した「左足ブレーキのススメ」も侃々諤々、論争の火種になった。「大賛成です」とおっしゃる方からの支持も多かった一方で、「それはプロドライバーだから可能なこと」との疑問も突きつけられた。
あらためて言えば、「すぐに左足ブレーキを徹底させろ」としたわけではなく、「自動車教習所の段階で左足ブレーキを感覚に叩きこめば、それほど難しいことではないよね」というある種の長い目でみた控えめな提案である。そもそも暗く目の届かない足元のペダルを右足だけで踏み分けることのほうが難易度が高いような気がするからだ。
ちなみに、日本最高峰自動車レース「スーパーフォーミュラ」のクラッチ操作は「指」でこなしているのをご存知だろうか。クラッチペダルは、足元にはない。ステアリングの裏側にある“羽”を器用に操作しているのである。
詳細に説明するならばこうだ。
ステアリングの裏側の、ちょうど薬指が触れる辺りに、500円玉サイズの小さなパドルが組み付けられてある。「クラッチペダル」ならぬ「クラッチパドル」だ。左右に2枚ある。
ステアリングに機能を集約
足元にあるのは、アクセルペダルとブレーキペダルだけだ。アクセル操作は右足でこなし、ブレーキ操作は左足である。
スタート手順がちょっとややこしい。左右両方のクラッチパドルを握る。おなじくステアリングの裏側の、クラッチパドルのちょっと上の、中指が触れる辺りにあるシフトチェンジ用のパドルを引くとギアが1速に入る。その後、左薬指のクラッチパドルをリリース、さらに右薬指のクラッチパドルを徐々に開放していく。するとマシンはスルスルと動き出すという仕組みだ。管弦楽の奏者が、バルブを器用に操るような操作が求められるというわけだ。
空気抵抗を減らし、サスペンション機能を優先するフォーミュラーマシンはボディの先端が尖っており、足元にクラッチペダルを設置するスペースがない。それが、ステアリングに機能のほとんどを集約する理由である。
ちなみに、過去に2度の日本一に輝いている石浦宏明選手はこう言って、指先クラッチの有効性を説いた。
「(停止状態から合図により一斉スタートする)スタンディングスタートでライバルから先行する必要性があります。そのためには、微妙なクラッチ操作が欠かせません。感覚の鈍い足よりも、感覚が繊細な手の指の方が適しているのかもしれませんね」
理想的な操作方法を考える必要性
レーシングエンジンはギリギリまで高回転域での高性能を追求するがあまり、低回転域、つまり、発進やトロトロ運転すると、簡単にエンジンがストール(エンスト)してしまうのだ。その点でも、繊細な指先の感覚に頼るのは正しいような気がする。
それでも、クラッチパドル操作を誤ることがある。スタートでミスをした場合には、エンジンがストップしてしまわないように、電気的にクラッチが遮断される機能が組み込まれている。レース中のスピンも同様で、予期せぬ旋回モーメントの変化を確認すると、マシンが自動でクラッチを遮断。エンジンストールを防ぐのだ。
クラッチ操作は指先に集約した方がいいなどと断言するつもりはない。だが、人間、慣れればクラッチ操作など、左足でなくても指先でも器用にこなす生き物である。まして、ブレーキ操作など、もはやレースの世界では語られることもないほど常識になった。いま一度、理想的な操作方法とは何かを考えるのも必要なのかもしれない。
【プロフィール】木下隆之(きのした・たかゆき)
ブランドアドバイザー/ドライビングディレクター
東京都出身。明治学院大学卒業。出版社編集部勤務を経て独立。国内外のトップカテゴリーで優勝多数。スーパー耐久最多勝記録保持。ニュルブルクリンク24時間(ドイツ)日本人最高位、最多出場記録更新中。雑誌/Webで連載コラム多数。CM等のドライビングディレクター、イベントを企画するなどクリエイティブ業務多数。クルマ好きの青春を綴った「ジェイズな奴ら」(ネコ・バプリッシング)、経済書「豊田章男の人間力」(学研パブリッシング)等を上梓。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。
【クルマ三昧】はレーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、最新のクルマ情報からモータースポーツまでクルマと社会を幅広く考察し、紹介する連載コラムです。更新は原則隔週金曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【試乗スケッチ】はこちらからどうぞ。
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