【近ごろ都に流行るもの】「PA(ピーエー)って何者?」(上)在宅医療支える「無資格のプロ」

 
患者の要望や心配事などを聞き出す在宅医療PAの木村圭佑さん(右)=東京都新宿区
医師とともに患者宅へ向かうPAの木村圭佑さん(中央)。団地への訪問も多い=東京都練馬区
患者の要望や心配事などを聞き出す在宅医療PAの木村圭佑さん(右)=東京都新宿区

 PA(physician(フィジシャン) assistant(アシスタント))。読んで字のごとく医師の助手。看護師、薬剤師など国家資格者で構成される医療機関で、無資格のアシスタントを独自で養成する試みが成果を上げている。医師の診療をサポートするとともに、“一般人”感覚で患者や家族に寄り添い、望みを聞き出して医療・介護事業者に取り次ぐ「ハブ」の役割も果たしている。そんなPAが支える訪問診療に密着。彼らの働きから見えるニーズや将来展望について、上下2回に分けて考てみたい。(重松明子)

 「アシスタントの木村と申します」。古いアパートの一室に木村圭佑さん(29)の元気な声が響くと、ベッドの男性(77)が相好を崩した。「おう、久しぶりだな。来てくれてうれしいよ」。今回の取材・撮影を許してくれたのも彼への信頼の表れだろう。「いつもやさしく気配りしてくれる」と語った。

 前立腺がんを患い、木村さんが所属する「やまと診療所」(東京都板橋区)の訪問診療を受けて1年。雨漏りのバケツを見ながら「こんな所でも、自分の家にいたいもんなんです」

 水野慎大(しんた)医師(37)の診察後、男性が木村さんにスマホを見せた。友人からの日光旅行の写真だ。「元気になったら行きたいな」。「行きましょう! お連れしますよ」。木村さんがベッドに身を乗り出す。水野医師も「旅行介助してくれるボランティアにつなぎましょう。ここからは木村の仕事です」

 「東照宮と…華厳の滝も見ないとな」。行きたい場所を聞かれて、男性の顔色がみるみる明るくなってゆく。

 医師1人にPA2人のチームが車で患者宅を回る。

 かばんに医療器具を詰めるところから始まり、スケジュール調整、車の運転、診療準備・片付け、患者や家族との会話記録、要望や困ったことなどを聞き出して関係先と連携を図る…。後輩PAが運転する車中でも薬剤の発注、相談を受けた補聴器の問い合わせなど、次々と電話をかけ続けている。管理栄養士の資格を持つ木村さんは専門学生時代に、やまと診療所で安井佑院長(39)の“カバン持ち”のアルバイトをしたことで在宅医療に目覚め、4年前にPA第1号となった。「(医療的には)無資格でも医師を助け、目の前の患者さんの役に立てる仕事。充実感があります」

 東大医学部を卒業し途上国で医療活動に従事した経験を持つ安井院長は、医師の立場からPAの必要性を感じていた。「アメリカでは国家資格。PAというパートナーがいてくれることで医師は医療行為に集中できる。一方、日本では医師が『先生』という絶対権威に君臨し、担う領域もムダに広くて非効率」と指摘した。

 やまと診療所が手がける在宅医療の現場では、治療よりも患者や家族にとって「何が幸せなのか」が重要。「最期の時間まで自分らしく生きて死ねる、そのためのプロデュースやコーディネート業に近い業務」と安井院長。そのうえで「そこまですべて医師ができれば、それは素晴らしい“赤ひげ先生”だが、実際にはコミュニケーション下手な医師も多い。患者・家族の意思決定の支援ができる医療人としてPAを育成しています」

 4年前に在宅医療PAプログラムを開始し、これまでに約50人が入社した。学歴や職歴は不問で「人が好きで素直なこと」が前提条件。3年間の見習い期間中にコミュニケーショントレーニングを徹底する。

 「医療の素人であるがゆえの気づきや、医師には遠慮して伝えない本音を聞き出すことができる。PAは医師のトランスレーター(翻訳者)として患者と家族に踏み込んでゆけるコミュニケーション能力と姿勢が不可欠です。医者の後ろに隠れているだけでは問題も起きないが、役にも立たない」

 これが安井院長が求めるPA像。アシスタントといいながら、完全なプロフェッショナルだ。((下)は明日9月15日に掲載します)