【近ごろ都に流行るもの】「PA(ピーエー)って何者?」(下)「自分らしい死」願い支える“看取り屋”

 
医療器具が詰まった重いかばんを肩に、医師に伴い患者のもとへ。住宅街をゆく2人のPA(右、左)=東京都練馬区
独自にPAを育成する、やまと診療所の安井佑院長。熱く理念を語る=東京都板橋区
中央の医師と3人チームで動くPA。患者宅での会話を入力(手前)、側に控えてサポートする(奥)=東京都練馬区

 昨年亡くなった女優の名言集「樹木希林 120の遺言 ~死ぬときぐらい好きにさせてよ」(宝島社)が、9刷59万部を突破している。自宅で息を引き取った希林さんのような「自分らしい死」への共感とは裏腹に、自宅で死を迎える人は13.2%(平成29年人口動態統計)に過ぎない。我が家での臨終を願う終末期患者と家族をサポートする在宅診療医師の助手、PA(フィジシャン・アシスタント)の業務は、多死社会を迎えた日本の切実な課題を背負っている。(重松明子、写真も)

 「主人は、住み慣れた家のベッドで亡くなった。子供や孫にも最期のあいさつができて幸せだった」と語るのは、昨年末に71歳の夫をがんで見送った妻(69)。病院を拒む夫の意志を尊重した。

 「足をもんでくれ」「はい、ちょっと待って」「君のちょっとは一時間か」…。そんなやりとりを回想し、「彼らしくいばってて、格好いい家長のまま逝った。病院だったら、お見舞い時間の制限や小さな孫が騒いだら迷惑だとか、いろいろと気を使ったでしょうね」。夫婦2人暮らし。在宅での看取りには不安もあったが、「アシスタントの方(PA)が『24時間、何かあったら電話してください』と。救われました」

 「先生」でないからこそ声をかけやすいPAは、無資格の医療従事者。生活上の要望や不安だけでなく、「人工呼吸器を使いたくない」など医療上の求めも把握し、医師や看護師、介護事業者などにつないで調整する。最期まで生きる環境を整えることが仕事だ。

 「患者と家族が遠慮しているうちに、大切な最期の時間が過ぎ去ってしまう。そんな亡くなり方でいいのか」。やまと診療所(東京都板橋区)の安井佑院長(39)は、6年前に在宅医療専門診療所を立ち上げるなかで、「患者と家族に踏み込む医療人」として、4年前から独自にPAを育成している。

 同時期にペットショップ店員から転じた佐々木優さん(33)は、見習いとして働き始めて1カ月で看取りに立ち会った。医師の死亡確認に同行。涙する家族を前に何もできない申し訳なさとともに、人のために本気で働ける仕事だと感じた。「その方らしい生をまっとうできるよう、寄り添うことが僕たち『看取り屋』のプライドです」

 大学卒業後事務職として働いていた山内美郷さん(28)は、父親が最期を過ごしたホスピスの職員の仕事ぶりに感動。「資格のない私にもできることはないか」と就職情報を探してPAを知った。「また次に会えるかわからない患者さんと向き合い、仕事には常にスピード感が伴う。ご遺族から『いい生活ができた』といわれたとき、PAになった喜びを感じた」。目標を尋ねると、「結婚してママさんPA第1号になること」。はにかみながら答えた。

 学歴・職歴不問で、同診療所で採用したPAは4年間でおよそ50人にのぼるが、このうち20人ほどがすでに退職した。経験豊富な看護師がPAとして入社したものの、なじめずに辞めてしまったケースもあったという。

 見習い期間の3年間に行う座学教育では、死生観の考察を重視し「医療人としての質を高める」と安井院長。その間の基本給は週5日勤務で月25万円。一人前として「認定」されると30万円に上がり、当直などの諸手当を含めた年収は550~600万円。10年後にはPA150人体制を目指している。

 国の統計によると、平成29年の死亡者数は134万人で、令和22(2040)年をピークに、さらに30万人以上の上乗せが推計されている。病院のキャパシティー不足、医療費削減の問題からも終末期の在宅医療の拡充は社会的な要請である。

 横浜市内に5月、在宅医療専門の「アーチクリニック」を開いた関根一真院長(35)は、やまと診療所の非常勤医師として働いた経験がある。

 大病院へ行くことを勧めた患者の表情を感じ取ったPAが、病院に対するストレスの大きさを聞き出してくれたことがあったといい、「終末期は医学的判断よりも、本人の望む生き方をかなえることが大切。ケアの充実には多面的な視点が必要になる」と、自らも独自のPA育成に乗り出している。

 今後、広がっていくのだろうか?と問うと、「医療業界は職務領域が明確な専門職集団で、閉鎖的な側面もある。無資格のPAにどこまで仕事を任せていいのかという議論は慎重になりがちで、導入へのハードルはまだ高い」と指摘した。

 今回の取材で感じたのは、PAの技量能力は、個々の人柄と意欲に頼るところが大きいということ。明るい人が多いが、実際、精神的に健康な人でないと務まらないだろう。

 「往生」という、誰もが取り組まなくてはならない人生最後の宿題を手伝ってくれる、家庭教師のお兄(姉)さん。そんな印象も持った。