トヨタ自動車の初代カローラが誕生したのが1966年のこと。それ以来、日本を代表する大衆車の雄として君臨してきた。海外にも輸出されてはいるものの、日本の道をもっともよく知る「日本の国民車」として親しまれてきたのだ。
だが、デビューから53年。時代は変わろうとしている。カローラが担ってきた国民車としての役割はもう終わろうとしているのかとも思っていた。
というのも、環境の時代を迎えたことでプリウスを代表とするハイブリッド専用車が主流となり、一方でポルテやシエンタといったミニバン系が家庭に浸透した。背の高いSUV形への抵抗感もなくなった。コンパクトなセダンをベースに、ワゴンやハッチバックにバリエーションを広げてはいても、カローラはもう昭和の大衆車であり、令和の時代に必要とはされていないとさえ感じていたのだ。だからいずれトヨタは、カローラを絶版車にしてしまうのだろうと。日産がサニーを捨てたように…。
ところが、トヨタはカローラを大幅にキャラクター変更して誕生させた。だらだらと生き長らえさせるための延命措置ではなく、令和の時代に必要とされるクルマへと魂をこめて開発したのだ。
HVのほかにガソリンターボも用意
伝家の宝刀1.8Lハイブリッドを、新時代のTNGAプラットフォームに積みこんだ。それは想定の範囲だが、驚くべきは、1.8Lガソリンエンジンをラインナップに加えただけでなく、1.2Lターボエンジンを押し込んでいることだ。
すでに、1.2Lターボを積む「カローラスポーツ」を、2018年6月に先行デビューさせている。ハッチバックボディのそれを先鋒として送り込んでいたほどの気持ちのいれようである。
しかも、である。MTモデルまで準備している。セダン人気が薄れて、オートマチック限定免許取得者が増えている令和のいま、その流れに逆行しているかのような仕掛を盛り込んでいるのだから開いた口がふさがらない。
とはいうものの、日本市場を見限って、海外に活路を求めたわけではない。全長は85mmも長くなり、全幅は50mm拡大した。全高は50mm低くなった。海外でも見劣りしないサイズになった。だが、トヨタによれば「日本にジャストフィット」な国内専用パッケージだという。
これほど走りが良くなるとは…
ボディは拡大したものの、最小回転半径は抑えられており、日本の狭い道での取り回しは悪化していない。狭いコインパーキングでの駐車を考慮して、ドアミラー格納時の幅を抑えている。ドアの開け閉めの苦労はない。日本の道を無視してはいないばかりか、細工は痒いところに手が届く。
それでいて、走り味にも力をこめた。TNGAプラットフォームによって、低重心感覚が強い。コーナリングは、路面に吸いつくように安定している。特にライントレース性に力を込めたようで、ドライバーの疲労を抑えた走り味を求めているのだ。
トヨタの言葉を借りれば「直結性」だという。目線がキョロキョロと彷徨うことなく、安定したままドライブできるように、路面からの突き上げを抑え、ステアリングの反応を素直にしたという。
たしかに、首都高速の流れをややリードするようなペースで流していても、意図したラインを正しくトレースすることができた。直進性と、エンジンを震源とする微振動が気になったものの、かつての「大衆車のカローラ」ではなく、走りに優れたカローラになったような気がするのだ。
正直に言えば、これほど走りが良くなるとは想像していなかった。営業マンの足として、燃費と価格と使い勝手だけがカローラが期待される要件かと思っていたが、考えを改めなければならない。
そこで気になるのはプリウスとのカニバリである。心配になってしまうのは、ハイブリッドしかもたない同門のことだった。
【試乗スケッチ】は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【クルマ三昧】はこちらからどうぞ。