3月に欧州カーオブザイヤーに輝いた「ジャガー I-PACE」は、ジャガー初のEVモデルであることで注目を浴びている。
これまではどちらかといえば、伝統的を重んじるスタイルが個性の源だった。V型12気筒を長く作り続けていたし、内燃機関を徹底的に鍛え上げ、爆発的なパワーを誇るSVOシリーズで世間をアッと言わせてきた。そんなジャガーが、ハイブリッドでお茶を濁すのではなく、BEVと呼ばれる本格的なEVモデルをデビューさせたのだから、世間が腰を抜かしかけたのも道理なのだ。
しかも、SUVである。全長4695mm、全幅1895mm、全高1565mmであり、特徴的なのはホイールベースが2995mmと、前輪と後輪の間隔は全長5メートル級のビッグセダン並の長さにしたことだ。その前後の長いフロア下に、90kWhの大容量リチウムバッテリーを敷きつめている。90kWhもあるから、フル充電状態での最長航続距離は、WLTC世界規格モードで438kmというから、常識的な範囲でのロングドライブを余裕でこなす。電欠を心配せずに長旅が可能だ。
それでいて、パワーも十分、いや十分すぎる。前後に2機のモーターを搭載。合計出力は400psに達する。ヘビー級のバッテリーを搭載するため車重は2.2トンに達するものの、パワー不足を感じることがないばかりか、不用意なアクセルオンでは頭がクラクラっとするほどのダッシュを見舞う。
しかも関心するのは、車高がけして低くはないSUVだというのに、フットワークが洗練されていることだ。高性能セダンを伴ってワインディングドライブに向かっても、足を引っ張ることはないし、いやむしろ、先頭を駆け回りそうである。その気になれば、サーキット走行もいとわない。
EVのメリットのひとつ:重量配分
前後重量配分は50:50。最大の重量物であるバッテリーを自由に搭載可能なメリットにより、理想的なウエイトバランスを実現しているのである。EVのメリットのひとつは、比較的自由な位置にバッテリーを搭載できるから、重量配分が自在なことである。しかも、燃料が変化しないから、つまり、ガソリン車のように重量配分が変化しないのだ。常にベストな状態でいられるのである。
エアサスは乗り心地が良く、それでいてフラットライドを実現している。決して足回りが硬く感じることがないのに、コーナーを俊敏に駆け回るのは、前後バランスが整っていることと無関係ではあるまい。
ガソリン派を自然にいざなう優しさ
「EVはあくまでも手法のひとつであり、伝統的なジャガーの延長線上にあるのです」-。担当者の言葉に納得した。スポーツカー好きなジャガーらしさが色濃く残っているのである。
90kWhもの大容量バッテリーを搭載することから、米国テスラと比較してしまうのはサガだろう。だが、テスラが「内燃機関に引導を渡す」と鼻息荒く、あからさまな近未来感覚を強調しているのに対してジャガー I-PACEは、これまで馴れ親しんだ内燃機関の良さを失うことなく、最新の技術と融合させている点が決定的に異なる。
テスラは過剰にEV感を強調しているがために、たしかに異次元空間で運ばれている喜びがある。だがそれが鼻につくのも事実だ。ジャガー I-PACEには、これほど本格的に開発したEVであるのにもかかわらず、ガソリン肯定派を自然にいざなう優しさがある。
欧州カーオブザイヤーに輝いたのは、いたずらな先進性だけではなく、クルマとしての正当性が評価されたからなのだと思う。
【試乗スケッチ】は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【クルマ三昧】はこちらからどうぞ。