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あおり運転に備える自動車保険のドラレコ特約 年末年始のトラブル対策に

高橋成壽

 あおり運転を受けたことがある人は、ドライバーの3人に1人とも、2人に1人ともいわれるなか、あおり運転の厳罰化に向けた動きが警察庁で始まった。あおり運転は他の車両への激しい接近、幅寄せ、追い抜き後の急ブレーキなどを繰り返す行為だが、明確な定義がない。

 警察庁は2020年にも法改正を実施し、あおり運転の定義を定め該当する場合は一発免許取り消し、懲役や罰金刑などとなる模様だ。背景には、高速道路でのあおり運転による事故死、殴打事件などの発生にもかかわらず明確な規定がなかったことがある。やられ損をなくし、やった方を処罰できるように市民が望んだ経緯がある。

 あおり運転の起こりやすい状況はいくつかあるが、急いでいる車両がスピードの遅い車両に進行をふさがれたり、何らかの不満をもったりしたドライバーが引き起こすとされている。大事故につながる可能性が高いのは高速道路だろう。通行する車両の速度が速いため、急ブレーキや幅寄せによる停止は危険である。

 万が一の情報伝達

 あなたが万が一自動車事故を起こした場合、自分と相手の責任は誰の手によってどのように判定されるのだろう。

 国土交通省のWEBサイト「自動車総合安全情報」によると、交通事故にあったら次のような行動が望ましいと記載されている。

  • 1.警察へ届ける
  • 2.相手を確認する
  • 3.目撃者を確保する
  • 4.自分でも記録する
  • 5.医師の診断を受ける

とある。

 事故直後に冷静に対応することはどんなに冷静な人でも難しいと考えられるが、人命救助と警察への通報は必須といえる。事故の相手が逃げてしまったり、加害者や被害者が重症を負ったりしている場合などは、事故現場の状況確認が直ちにできないことがある。

 特に注意したいのは、警察による現場検証・実況見分だろう。このタイミングで的確に状況を伝えることができないと、被害者なのに加害者扱いされたり、保険金の請求額が変化したりしてしまうことがある。

 筆者が聞くだけでも、被害者が治療中に加害者側が自分に有利な説明をしたことで、被害者側の責任を問われてしまうことがある。死亡事故などでは死人に口なしであり、口頭での説明で事故の状況判断が大きく変わることになる。

 警察に事故の被害を的確に伝えるのに重要な証拠となりうるのが、目撃情報や録画データである。例えば、事故現場がコンビニエンスストアの面前の道路であれば、コンビニの防犯カメラの映像が証拠となりうる。昼間であれば、現地の住居する通行人の証言も大切だろう。

 平成30年の交通事故発生件数は43万件となる。交通事故の件数は10年前から半減しているものの、月当たり3.6万件の事故が起きている計算だ。1日1000件以上の事故が発生していることになる。警察も全件丁寧に対応することが難しい事情もあるだろう。被害者に寄り添った丁寧な実況見分は難しい。目撃者を募るのも大変だ。そこで注目を集めているのがドライブレコーダーだ。

 ドライブレコーダーの強みは、なんといっても証拠力だろう。常時録画されているため、不意の事故であっても、状況がはっきりと記憶されている。事故後のあいまいな目撃情報は、人によって伝え方、感じ方が異なるため、参考にもならない場合がある。しかし、ドライブレコーダーは動画であるため、事実をはっきりと残すことができるのだ。

 例えば、完全に停車している状態での追突事故であれば、ブレーキ痕を見るよりドライブレコーダーの記録を確認した方が早いだろう。右左折での接触事故では信号無視などが原因だとしても、その状況を証拠とともに説明することは、口頭では難しい。だが、ドライブレコーダーであれば、右折時に青信号であったとか、あるいは死角から不意に何かが飛び出したかなどが証拠として提出できるのだ。

 あおり運転事故の影響からか、ドライブレコーダーの販売台数は右肩上がりに増えている。一般社団法人電子情報技術産業協会のデータによると、ドライブレコーダー出荷実績は、2016年度145.7万台、2017年度266.5万台、2018年度367.1万台、2019年度は半期で239.7万台と年間500万台に届きそうな勢いだ。自分の身は偶然の目撃者に頼らず、自分で守る時代と言えそうだ。

 ドラレコの設置を自動車保険でカバー

 筆者の例で恐縮だが、年式の古い自動車を利用している。毎年長期休暇のタイミングでドライブレコーダーの設置を検討するのだが、ドラレコとカーナビを一緒に交換しようか、ドラレコだけ設置しようかなど迷ってしまう。設置しても、近い将来車を買い替えることが確実なので、高額の支出は避けたい。しかし、あるとき覚悟を決めて、カーナビ交換とドラレコ実施を決断したのだが、カー用品店が混んでおり、工事日程が長期休暇後であると告げられて断念したことが何度かある。

 とりあえずドラレコを設置したいと考えている方の選択肢として自動車保険の保険料に上乗せ金額を支払うと、ドラレコを貸与してくれるサービスがある。損害保険会社の大手である、東京海上日動火災保険、損害保険ジャパン日本興亜、三井住友海上火災保険などはWEBサイトで確認できる限りでも、自動車保険のドラレコ特約なるものがあり、毎月数百円の負担でドラレコが設置できるとある。

 長距離運転で起こりがちな高速道路の車線越えなどを警告したり、事故時には自動的に保険会社と連携したり、事故時のデータを保険会社に自動転送したりと、非常に優れていると感じたため、自分の自動車保険でもドラレコ特約を付けることにした。幸いにしてまだ事故はないが、安心して自動車を運転できていると感じる。

 なお、今回の話と少しそれるのだが、保険会社提供のドライブレコーダーを使うと、自動車運転手の技術診断ができる。これを応用して、実家に暮らす親の車に保険会社提供のドラレコをつけることで、子が親の運転技術を把握できるという使い方もありそうだ。

 本来は、安全な運転を促すための取り組みのはずだが、高齢者の免許返納も話題になっている昨今。客観的に親が危険な運転をしていないかを、子が確認し親に示すことで、高齢者による危険な運転も減らすことができるだろう。

 もし、現在の自動車保険にドラレコ特約が付いていない場合は、現在加入中の自動車保険を強制的に打ち切って、新規契約にしてしまうという方法もある。ぜひ、自動車保険の販売会社に確認してほしい。今ならまだ、年末年始の帰省に間に合うかもしれない。

高橋成壽(たかはし・なるひさ) ファイナンシャルプランナー CFP(R)認定者
寿FPコンサルティング株式会社代表取締役
1978年生まれ。神奈川県出身。慶応義塾大学総合政策学部卒。金融業界での実務経験を経て2007年にFP会社「寿コンサルティング」を設立。顧客は上場企業の経営者からシングルマザーまで幅広い。専門家ネットワークを活用し、お金に困らない仕組みづくりと豊かな人生設計の提供に励む。著書に「ダンナの遺産を子どもに相続させないで」(廣済堂出版)。無料のFP相談を提供する「ライフプランの窓口」では事務局を務める。

【お金で損する人・得する人】は、FPなどお金のプロたちが、将来後悔しないため、制度に“搾取”されないため知っておきたいお金に関わるノウハウをわかりやすく解説する連載コラムです。アーカイブはこちら