「7分40秒1」-。ルノーの「メガーヌR.S.トロフィー」が、ニュルブルクリンク・ノルドシュライフェで叩き出した記録である。ニュルブルクリンクは、世界一の過激なテストコースとされている。ドイツの片田舎であるアイフェルの丘陵地帯に刻まれた、全長20.8kmのコースがノルドシュライフェ。通称北コースだ。
すべてが要求される過酷コース
いつもは世界の主メーカーがテストコースとして共同で使用している。というのも、総延長20.8kmは、急激な下りや登り区間が複雑に入り組んでいるだけではなく、路面は荒れており、うねりやギャップも少なくない。エスケープエリアは少なく、コントロールを失えば命の危険すらある。ニュルブルクリンクでの24時間のテストは、公道の1年分の走行に値すると言われるほどマシンに過激なストレスが加わる。つまり、コースが過激であるために、マシンの開発には都合がいい。
同時に、マシンのスポーツ性能を証明するのにも都合がいい。過激なくだり区間は優れたブレーキ性能が求められる。登り区間は、圧倒的なパワーが不可欠だ。複雑なコーナーが入り組んでいるために、俊敏なハンドリングも欠かせない。それでいて、優れた高速安定性がなければ、重大なクラッシュになりかねない。クルマとしての資質のすべてが要求される。つまり、ここでの速さはマシンの優秀性の証明でもあるのだ。
だからこそ、これまで数多くのマシンがニュルブルクリンクに挑み、最速記録を掲げてきた。日本でニュルブルクリンクのタイムが公式に注目されたのは、「日産スカイラインGT-R(R33型)」が最初だったと記憶している。CMになったキャッチコピーは「マイナス21秒ロマン」。旧モデル「R32型」の最速記録は8分20秒だった。それが前人未踏の8分切り、7分59秒を記録したことを誇り「マイナス21秒ロマン」としたのである。1995年のことである。
シビックタイプRを超えたメガーヌ
その後、スバル・インプレッサが8分12秒75を記録して、2リッター4WDマシン最速の称号を手にした。日本のクルマが、世界的レベルに到達したことを祝うがごとき意味が込められていた。
その後、技術の進歩に合わせてマシンの性能は飛躍的に高まった。ホンダ・シビックタイプRが、「7分43秒8」を記録したのはつい最近のことだ。FF最速記録である。その余韻に浸る間もなく、記録は更新された。「7分40秒1」。それがメガーヌだったというわけである。
さすがに最速マシンは刺激的なハンドリングを披露した。切れ味は抜群である。だがしかし、レーシングマシン然としたハード系かといえば答えはノーだ。路面のアンジュレーションには寛容だし、ドライバーのコントロールに忠実に従う。パワーはターボらしいドッカンな特性だが、レスポンスは鋭い。
それすなわち、ニュルブルクリンクの特性を証明するかのようだ。ただやみくもに切り味が鋭いだけでなく、最終的には安定感が高いのである。そのバランスが見事に整っていた。ニュルブルクリンク最速記録は、しばらく破られそうにない。
【試乗スケッチ】は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【クルマ三昧】はこちらからどうぞ。