【5時から作家塾】「年金開始おめでとう!」も お祝いがどんどん増える!? 欧米カード事情

 

 どんどん増える「祝日」

 ひと昔前と比べて、なんだか日本の年中行事や、そのために買うものが増えていないか? と感じている年寄りは筆者だけではあるまい。

 節分の恵方巻、春になればイースター、秋はオクトーバーフェスト、ハロウィーン、クリスマスになればサンタだけでは飽き足らずクリスマスマーケットなど、筆者が子どもの頃にはろくに知られてすらいなかった「祝いごと」が当然のように毎年開催され、そのたびに私たちの多くが何かしらの出費をしている。

※イメージ画像

 「平賀源内が『土用の丑の日はうなぎ』の習慣をでっちあげる前」の記憶がある読者はさすがにおるまいが、バレンタインデーやホワイトデーがなかった頃を覚えている方、はたまた「クリスマスなんて教会しか祝っていなかった」時代を覚えている先輩方はきっといらっしゃるはずだ。

 「祝日」が多いと季節感も味わえるし、このご時世に消費活動も刺激されて結構だし、なにより楽しいし、文句は一切ない。ないのだが、常に懐のさびしい筆者は近年の「祝日」の増加にちょっとゼーゼー言っている。

 英語では「ホールマーク・ホリデー」と呼ばれる

 もっとも同様の理由で「祝日」がどんどん増えているのはわが国だけではない。英語には「近年になって商業目的で企業が仕掛けた、非伝統的な祝日」を意味する「ホールマーク・ホリデー」という表現があるくらいだ。

 「ホールマーク」は言わずと知れた、アメリカのグリーティングカード製造・販売世界最大手企業。何かにつけてカードを贈りあう習慣のある欧米でお祝いごとを牽引し、実際祝日を「仕掛ける」こともあるため、こういうイディオムが生まれたらしい。秘書の日、兄弟の日などが典型的な例で、消費主義的な意味でのクリスマスや母の日までここに分類する人もいる。

 ヨーロッパでもカードを贈りあう

 ヨーロッパでもホールマーク社のカードを扱うカードショップはあちこちにあるが、当然国や地域に合わせてローカライズされている。

 欧米の既成品のグリーティングカードがありがたいのは、凝ったデザインに加え多くの場合メッセージまで印刷してあり、しかもとんでもないバラエティに富んでいるので、相手と用途にピッタリのカードが必ず見つかり、あとはひとこと手書きで添えるだけでいいこと。

 知人や離れて住む家族にお祝いや不幸があった時に、「手紙」だと文面を考えて、長い文を書いて、と非常に時間と気力の要る(そしてしばしば避けてしまう)作業が、「カード」だと1分で済んでしまうのだ。そして受け取る側としても、書いてあるのは一言でも、カード自体も楽しめるし、やっぱりこの時代にポストに届くおたよりは嬉しい。

「書店のちょっとしたカードコーナー」でこの充実っぷり(筆者撮影)

 オランダではユニークなカードが乱れ咲き

 筆者が現在暮らしているオランダにも、カードの種類は既製品だけでも目が眩むほどある。クリスマスカードは箱買いが基本。バースデーカードは1歳から100歳まで年齢が印字されたものがあり、子ども用、女子用・男子用、10代用、独身者用、クリスマスが近い人用など、どんな相手にもピンポイントでピッタリなものが見つかる。妊娠祝い、スポーツの試合の前祝い、旅行いってらっしゃい祝いなど日本ではわざわざカードは贈らないシチュエーションも祝うカードが多くある一方、体調を崩した人に送る「お大事に」カードや、身近な人に不幸があった人や、以前に亡くなった人の命日にその人の家族に送る「お悔やみ申し上げます」「お心を強く持って」というカードも充実している。こちらは送る方も何と書いていいのか悩むことを察してか、「あなたのことを想っていることを知らせたくてこのカードを送りました」「今は心が空っぽでしょうが、時が経てば美しい思い出がその心を満たしてくれます」など気の利いたメッセージが印刷されているものも多い。

 なんでも「祝ってしまう」ポジティブさ

 その中でも筆者が始めてみた時に猛烈に違和感があったのが、「転職・転居祝い」「年金受給開始祝い」「離婚祝い」である。

 常に能動的に人生の選択をしていくオランダ人にとって、新しい家や仕事はつまり、「以前より(何らかの意味で)いいのが見つかった」ことを意味する。だからお祝いなのだ。それにしてもただの狭苦しい賃貸マンションに引っ越しただけで、「新住居バンザイ!」というカードを各種頂いた時には面食らった。

 また、「年金受給開始おめでとうカード」も非常に一般的。日本でいう「退職祝い」がちょっとしんみりした、「おつかれさま」「これからはつつましい年金暮らしだね」というムードをまとう一方、オランダの「年金祝い」は「おめでとう! 年金もらえるよ!」「年金楽しんで!」「とりあえず年金でビーチ行ってこい!」とちょっと不謹慎なくらい手放しでお祝いである。

年金カード一例。楽しみすぎではないだろうか(カード販売会社公式HPより)

 最後に、これは日本でもあってもいいし、ニーズもあろうと思うのが、「離婚祝い」カードだ。しつこいようだが能動的なオランダ人にとっては、離婚も何らかの正当な理由で本人が下した決断。新しい旅立ちを祝うカードがこれまたわんさか各種あるのだ。光の射す森の小道の写真に「これからは自分自身の道を」という文字が入っている…というようなしんみりしたものはむしろ少数派で、「自由おめでとう!」「離婚はつらい。でも結婚生活はもっとつらい」「ハッピー離婚!」とポジティブで、これもまた日本人の筆者の目には不届きに見える…が、もしも自分が当事者で、一人の生活を始めた頃にこんなカードが友達や家族から届いたら、ちょっとほっこりした気持ちになるかもなあとも思う。

 余談だが「離婚はするけど愛してるよ」「愛し合うことは、時に距離を置く勇気を持つこと」などというメッセージの入ったカードの存在に、円満離婚の多いオランダらしいなあと文化差を感じてしまった。

 既製品であることの意義

 なんでもパーソナライズできるこのご時世、ここで紹介したようなカードはアイディアさえあれば誰だってオリジナルで作れる。しかし、既製品であることの意義ってあると思うのだ。お祝いカードなら既製品なのに自分に細かくピッタリなカードを見て「まるで私のこと! こんなカード売ってるんだ!」と嬉しくなるし、逆に悲しい状況で受け取るカードなら既製品のカードの向こうに同じような境遇の人の存在が透けて見えて、少しだけ慰めになることだってあるだろう。

 そういう意味で、オランダで見ていいなと思ったもう一つのカードは、がんと闘病中の人に送る「がん治療がんばって」カード各種。「最後の抗がん剤まであと〇回!」「あなたならがんに勝てる!」などと励ましのメッセージが入った既製品のカードをもらえば、「こんなカードが流通するくらいがんと闘っている人はたくさんいるんだ」とちょっと心強く思わないだろうか。

 どんなシチュエーションでも、どんな相手でもピッタリなものが見つかる欧米の既成グリーティングカード。このどんなニッチなニーズもカバーする超絶バラエティ、日本でもぜひカードや書籍、パーティプランなどで打ち出してみてほしい。(ステレンフェルト幸子/5時から作家塾(R)

【プロフィール】5時から作家塾(R)

編集ディレクター&ライター集団

1999年1月、著者デビュー志願者を支援することを目的に、書籍プロデューサー、ライター、ISEZE_BOOKへの書評寄稿者などから成るグループとして発足。その後、現在の代表である吉田克己の独立・起業に伴い、2002年4月にNPO法人化。現在は、Webサイトのコーナー企画、コンテンツ提供、原稿執筆など、編集ディレクター&ライター集団として活動中。

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