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日本から視察も 体験して感じたホームドクター制度のメリット・デメリット (1/3ページ)

 日本でも議論が始まっている「かかりつけ医(ホームドクター)」制度

 だれもが手軽に病院を受診でき、かつ高齢化が進む我が国において、言うまでもなく医療費はここ数十年うなぎ上りだ。このままのペースで増加すると、2026年の国民医療費は69兆円に上るという厚生労働省の試算もある。

 その対策の一つの選択肢として近年しばしば議論に上り、自己負担など独自の方法で試みを始める医師も増加しているのが「かかりつけ医(ホームドクター)」制度である。

 各個人が地域の中でかかりつけの「診察医」を決め、体調不良の際には何でもまずその医師に相談するこの制度に関しては、OECDも「健康増進のための最も費用対効果が高い方法」と推進している。

 日本においてもこういった診察医が行うプライマリケアと、専門医が行う高度専門治療の機能分化を促すため、2015年には患者が紹介状なしで大病院を受診する際には5000円以上の特別料金が自己負担額として課されることになった。

 欧米の多くの国ではホームドクター制度が一般的 そのメリットは

 事実、欧米の多くの国ではホームドクター制度が一般的だ。元々は医療費の個人負担がとんでもなく高額になるケースが多いアメリカで発達したシステムのようだが、イギリスを含むヨーロッパの多くの国でも、通常の受診プロセスは「まず、ホームドクターに」である。

 筆者が数年前から生活しているオランダでもホームドクター制度が定着している。ここではまず、引っ越して住民登録を済ませた後の最初の仕事は、地域のホームドクター探しだ。自分で決めた診療所(多くは最も近いところ)に連絡し、家族全員の生活状況や健康に関する総合的な情報を話す初回面接を済ませれば、晴れてそのドクターの患者として登録されて、次回から受診したい時は電話して予約できるようになる。相性が合わないと思えばもちろん自分で他のホームドクターに替えることもできる。

 実際に利用してつくづく思うのは、「なんと国にとって安上がりな医療なのだ」ということだ。ホームドクターシステムでは、二重三重のアセスメント(見立て)の網により、不要な受診や投薬、検査は一切されないようになっている。

 まず、受診しようと電話をすると応答するのは准看護師にあたるアシスタントで、電話口で症状を聞かれる。そこで「鎮痛剤を飲んで寝ていなさい。丸4日経っても熱が38度を下らなかったり、症状が悪化したりする場合には、またすぐに電話するように」などとブロックされてしまうことがよくある。そこをパスして医者に会っても、顔を合わせて診察してもらい、詳しい説明を聞けるだけで、結局は「家で寝ていろ」となることも多い。そしてたいてい、しぶしぶ言われたとおりにしているとほぼ予告された日数が経つ頃には治ってしまうのだ。病気に関して「uitzieken(薬などで無理に早く治療せずに、自力で病気が治るのを待つ)」という考え方が一般的で、病気なら仕事を休める社会的・文化的背景あってこそ成り立つやり方だとは思うが、それだけに受付嬢も含めホームドクターの町医者は「診断のプロ」感が強い。

 筆者も日本にいた時はタダの風邪でも大病院で受診して、おなかいっぱいになるくらいの薬を出してもらっていたし、ちょっとしたことですぐに「念のためCTを撮っておきましょう」と、たいそうな検査をしてもらえるのが当然と思っていたので当初は面食らったが、そのうち慣れて、受付嬢や医者の見立てにそれなりの信頼を置くようになった。と同時に、それでも不安な時は強引に予約をお願いし、受診時には納得するまで医師に質問する図々しさも身に着けた。

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