英語習得するため群馬に“留学” スマホ、テレビも禁止、連絡手段は郵便のみ
【深層リポート】
全国の小中学生を対象とし、ネーティブスピーカーらとの共同生活で生きた英語を習得する山村留学施設「くらぶち英語村」(高崎市倉渕町川浦)が開設から3年目を迎える。人口3300人余り、高齢化率46%超の過疎地域にあるが、高齢者向けの英語教室が開催されるなど、その存在は周囲に「化学反応」を起こし始めている。
英語村は平成30年4月、国際社会で活躍する人材育成と地域の活性化を目的に、市によって開設された。23年に廃校となった旧倉渕川浦小学校の敷地内に木造2階建て、延べ床面積約1300平方メートルの寄宿舎を建設した。
現在の2期生は関東地方や大阪、兵庫からの小学生13人、中学生9人で、親元を離れて生活している。1年単位が原則だが、6人が2年連続の留学だ。
英語村で子供たちはスマートフォン使用だけでなく、テレビ視聴も禁止。家族などへの連絡手段は郵便だけだ。朝は午前5時50分に起床。掃除と朝食を済ませ、7時過ぎには約4キロ先の倉渕小と、約6キロ先の倉渕中に向かう。
子供たちを支えているのが共に生活する8人のネーティブスピーカー、山村留学に実績を持つ公益財団法人「育てる会」のスタッフ7人ら。休日には自然体験や地域行事などにも一緒に参加し、英語に囲まれた暮らしを実現させている。
「ほとんどの子は『英語で仕事がしたい』など目的意識がはっきりしている。ここでの強烈な体験で鍛えられた子供たちがどう花開いていくか楽しみ」と、村長の高橋秀郎さん(67)。
東京都八王子市から来ている小学4年、高市明寛君は「ゲームのプログラマーになりたいので英語は必要。ここは英語を話す量が多く、自然体験もできて楽しい。6年生まで留学したい」と目を輝かせた。
高齢者向け教室も
昨年9月からは、地域の高齢者向けの英語教室「シニアセッション」も開始。「寄宿舎が空いている平日の昼間を使って、地域のみなさんと一層の交流を図るのが目的」と高橋さん。これまでに7回開かれ、平均70代後半の高齢者約200人が参加した。
教室ではネーティブスピーカーによる簡単な英語レッスンやランチ懇親会、施設見学などを行う。参加した丸山玄子さん(75)は「登校する子供たちに声を掛ける年寄りも多い。地域の行事にもどんどん参加してくれるし、英語村には温かみがある」と話す。「将来は英語で話し合える地域にしていきたい」という声もあるという。
13人が通う倉渕小では英語村開設を機に、月曜日の放課後に実施している「チャレンジ教室」の教科を英語に切り替えた。
小池政一校長は「英語村の子は1年近くたつと、聞く・話すという英語の力をメキメキつける。教室でも地元の子と積極的に会話をしており、ややおとなしい地元の子にとっては確実に刺激になっている」と話す。
英語村では昨年1月14日、旧正月の伝統行事「どんどん焼」が8年ぶりに行われた。子供の減少で途絶えていたが、英語村の開設で復活。今年も地域の人たちが集まり、昨年以上のにぎやかさで行われる。
山村留学 親元を離れ、1年単位で自然豊かな農山漁村で生活をしながら自然体験活動や集団体験活動を通して、心身の健全育成と子供の可能性を引き出す教育実践活動。「育てる会」は昭和43年に長野県で発足、同県大町市を拠点に50年にわたって山村留学事業を実施している。
【記者の独り言】
取材では、何人かのお年寄りに話を聞いた。「倉渕川浦小が廃校になってからは子供の声を耳にすることが少なくなり、寂しかった」「英語村ができて子供の笑い声などに接すると元気になる」「手助けできることはやってあげたい」-。そこには底抜けの温かさがあった。
最近、世間では「子供の声がうるさい」というクレームがあり、時には住民同士でトラブルになることもあるという。子供の声を騒音と感じることが一概に悪いとはいえないだろうが、そんな国に未来はあるのかと考えてしまった。(椎名高志)