教育・子育て

入試直前に発生する“要らぬ軋轢” 受験のプロが守らせる、3つの「ない」

 模試でどれだけ成績優秀でも、受験本番はなにが起きるかわからない。中学受験塾代表の矢野耕平氏は「私は入試直前期に『受験生のマナー』というタイトルのプリントを必ず配っています。そこに書かれているのは『3つのない』。受験本番で本来の実力を発揮するためには、この『3つのない』が欠かせないのです」という--。

 入試直前期は人間関係のトラブルにご用心

 東京都・神奈川県の私立中学入試が2月1日から幕を開ける。1月には埼玉県や千葉県の私立中学のみならず、地方の私立中学校が首都圏を会場にした入試が始まる。首都圏の大半の中学受験生にとっては中学入試本番まで残すところあとちょっとだ。

 わたしの経営する中学受験専門塾でも連日受験生たちが塾にやってきて、「過去問」の演習やその直しを、さまざまな課題に一意専心している。入試で良い結果を出そうとまさに「追い込み」をかけている折も折、残念ながら子どもの学習意欲をそぐトラブルが起きやすい。

 その舞台は塾ではなく、小学校であることがほとんど。学校の友人との人間関係の「もつれ」である。わたしの塾で過去にあった事例を紹介しよう。

 友人の受験に干渉する受験生の末路

 「ねえ、●●ちゃんは、A中学校が第1志望校なんでしょう? わたしもそうなんだよね」

 ある女の子が小学校のクラスメートからそう話しかけられた。彼女はびっくりした。なぜなら、A中学校を第1志望校にしているのは小学校内では口にしたことがなかったからだ。しかも、そのクラスメートは別の大手塾に通っている。一体、どんなルートで漏れたのだろうか……。

 それ以来、そのクラスメートは彼女から毎日のように志望校や学習状況について話しかけられるようになったという。

 「●●ちゃん、この前の模擬試験の結果はどうだったの?」

 「過去問っていま何年分くらい終わったの?」

 「ほかにどんな学校を受験するの?」

 そんな彼女に応対することが苦痛でたまらない彼女は、わたしのところに相談にやってきた。わたしはこう回答した。

 「人間関係がもつれると面倒だからこう返答するといい。『塾から受験のことは小学校では絶対に話さないという指示が出ているから、詳しくは話せない』と」

 受験した学校がことごとく不合格になってしまった

 その後、クラスメートから彼女を質問攻めにすることはなくなったが、その代わりに、「自己アピール」が始まったという。

 「わたしこの前の模擬試験でA中学校合格可能性80%が出た!」

 「志望校別クラスでかなり上の位置にいるんだよね」

 「『滑り止め』はB中学校とC中学校かな」

 そう話しかけられた彼女は、「聞き役」に徹していたらしい。中学受験が終わり、無事にA中学校の合格切符を手に入れた彼女はこう振り返った。

 「とにかくあの時間は苦痛でした」

 そのクラスメートはどんな顛末を迎えたか。実は2月以降から小学校に通えなくなってしまった。第1志望校のみならず、受験した学校がことごとく不合格になってしまったのだ。そのクラスメートは彼女ひとりを「標的」にしていたわけではない。聞けば、小学校の同級生たちに自分の志望校や成績状況などを言い振らしていた。だから、友人たちの前に顔を出せなくなってしまったのだろう。

 クラスメートの母親がすべての原因だった

 この「不登校」のクラスメートの母親について、わたしは先述した彼女の母親から入試直前期に聞いていたのだ。

 彼女の母親によると、驚くことにそのクラスメートの母親自身も自分の娘と全く同じようなふるまいをしていたという。周囲の保護者に子どもの勉強の話だけでなく、同級生たちの受験校の「詮索」までおこなっていたらしい。当然、多くの母親たちからは冷ややかな目で見られていた。

 その「困った」母親の口癖は「●●さんの子と比べてウチの子は~」。わたしはこの話を聞いて、そのクラスメートの子がなぜ他人の受験に干渉したのか、その理由が理解できたのだ。

 このクラスメートの女の子は常日頃から母親からの「●●ちゃんと比べてあなたは何なの」「いいわねえ、●●ちゃんは優秀で」……そんなことばを浴びせられていたのだ。連日、母親から否定された子は「自己肯定感」を抱けなくなってしまう。塾で懸命にやっていても、認められず、ダメ出しばかり。だから、そのぽっかりと空いた「穴」を無理やりふさごうとして、同級生たちに無意識に「マウント」をとってしまったのだ。結局のところ、その子も被害者なのである。

 入試直前期 3つの「ない」

 わたしの経営する中学受験専門塾では、「受験生のマナー」というタイトルのプリントを入試直前期に塾生たちに配布している。それを紹介しよう。

 

 中学入試直前期 3つの「ない」

 1.自分の受験校・成績を絶対に「言わない」

 2.他人の受験校・成績を絶対に「たずねない」

 3.どんなに仲良しでも絶対に「群れない」

 上記の内容は子どもたちだけではない。保護者も遵守すべき「マナー」である。入試直前期、不安を抱いたりピリピリしていたりするのは子どもたち本人より、保護者のほうであることが多い。だからこそ、この3つの「ない」が大切になる。

 昨今は受験生同士のトラブルだけではなく、保護者同士の摩擦もよく耳にするようになった。そのほとんどはもともと「距離の近い」保護者同士で引き起こされる。わたしはこの時期の保護者会でこんな呼びかけをおこなっている。

 「仲の良い保護者同士、これから入試本番までは互いの言動に細心の注意を払いましょう。先ほど配布したプリントの『言わない』『たずねない』『群れない』を守れなかったばかりに、親同士の要らぬ軋轢が生じるケースがあるのです。中学受験の主役は受験生本人。お願いですから、わたしたちに受験生の指導に専念させてください。親同士のトラブル処理などに時間をとられたくはありません」

 わたしはこう考える。同じ小学校、同じ性別、同じ塾、同じ志望校……共通項が多い保護者同士ほどあえて距離を置く必要がある。

 結局はわが子が一番「かわいい」

 中学受験は「個人戦」である。このことを親子で胸に刻んでほしい。よく考えてみてほしい。わが子が不合格で、ほかの子が合格したとき、他人の子の合格を心から喜べる親などいないだろう。結局、みんなわが子が一番「かわいい」のだ。それは親の「業(ごう)」と形容すべきものだろう。

 前述の3つの「ない」を意識的に守り抜くことで、わが子が入試直前期に満足のいく総仕上げができるよう導き、笑顔の春を迎えてほしい。心からそう願っている。

 

矢野 耕平(やの・こうへい)

 中学受験専門塾スタジオキャンパス代表

 1973年生まれ。大手進学塾で十数年勤めた後にスタジオキャンパスを設立。東京・自由が丘と三田に校舎を展開。学童保育施設ABI-STAの特別顧問も務める。主な著書に『中学受験で子どもを伸ばす親ダメにする親』(ダイヤモンド社)、『13歳からのことば事典』(メイツ出版)、『女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密』(文春新書)、『LINEで子どもがバカになる「日本語」大崩壊』(講談社+α新書)、『旧名門校vs.新名門校』』(SB新書)など。