2019年11月。トヨタ「GRカンパニー」(※トヨタのモータースポーツ直系のスポーツカーブランド)の試乗会が開催された。事前情報によると、メインモデルは「C-HR GRスポーツ」だとされていた。
ところが、試乗会場に行ってみると、予想だにしなかったモデルが待ち構えていた。トヨタの試乗会だったはずなのに、「ダイハツ・コペンGRスポーツ」のデビューでもあったのだから腰を抜かしかけた。そう、「GRカンパニー」は、トヨタの連結子会社のダイハツまでもGRスポーツの対象車にしたというわけだ。
しかも、内容が濃かった。ドレスアップをメインに、サスペンションやタイヤ銘柄の変更など、市販車に比較的ライトなチューニングを施すのがGRスポーツの手法だったのに、ダイハツ・コペンGRスポーツに関しては気合いの入れ方が頭抜けている。
エクステリアでGRスポーツらしさを演出し、インテリアにもGRスポーツのパーツを散りばめるだけではない。パーツの後付けだけではなく、床下のプラットフォームにも徹底した細工が施されていたことには驚かされた。
標準モデルとは別物
クルマを裏返した構造図を見ると、補強の痕跡はありありとする。プラットフォーム中央からフロントのサスペンションメンバーへと、太いパイプがジャングルジムのように複雑に伸びている。リアメンバーへも太いアームがクロスしている。中央のプラットフォームも、左右を強固に連結している。これはもう、コペンのプラットフォームとは別物なほど剛性アップされているのだ。
しかも前端と後端を、左右のねじれや振動を吸収するパフォーマンスダンパーで連結しているという念の入れようだ。これほど凝ったプラットフォームワークは見たことがない。ほとんどレーシングマシンを作るかのようなボディ剛性への取り組みなのである。
オープンカーであるコペンは、ボディ剛性確保に欠かせないルーフを持たない。ルーフを失うことはボディ剛性の約50%を失うとされている。その不足分をバスタブのようなプラットフォームの補強で補わなければならない。とはいうものの、ここまで徹底するものかと感心したのである。
凄腕テストドライバー
だが、ここまでこだわる首謀者の存在で合点がいった。というのも、コペンGRスポーツのセッティングに、ダイハツのトップガンと呼ばれている松本豊氏が加わっていたのである。
自動車メーカーには、走行フィールの味つけを担当する凄腕のテストドライバーが存在する。トヨタの故・成瀬弘氏、日産の加藤博義氏、スバルの辰巳英治氏といった有名なトップガンのように、松本氏はダイハツの味付けを担当するのだ。
しかも、松本氏は、かつてニュルブルクリンク24時間レースに参戦して、苛酷なサーキットで開発を進めたレクサスLFAのメンバーでもある。不肖わたくしもこのプロジェクトにドライバーとして参画しており、氏の並々ならぬクルマへのこだわりを目にしている。
車両に多大な負担が掛かることから“カーブレイクコース”として名高いニュルブルクリンクでマシンを鍛えあげた張本人が、コペンGRスポーツの開発に参画しているのだから、クルマの肝であるボディ剛性確保に一切の抜かりがないのも道理なのである。クルマは機械が作るものではない。人間が作るものなのだとあらためて感じた。
【試乗スケッチ】は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【クルマ三昧】はこちらからどうぞ。