鉄道業界インサイド

東武・日比谷線直通の「THライナー」、停車駅や座席指定券の発売方法に注目

枝久保達也

 虎ノ門ヒルズ駅が開業

 今年6月6日、東京メトロ日比谷線が大きく変わる。ひとつ目は霞ケ関~神谷町駅間、国道1号と環状第2号線の交差点付近で工事中の「虎ノ門ヒルズ」駅の開業だ。その名の通り虎ノ門ヒルズ及び周辺ビルに直結するこの駅は、再開発が進む同エリアの玄関口となるだけでなく、バスターミナルなども併設され、港区の新たな交通結節点になることが期待されている。また銀座線虎ノ門駅とも約400mの連絡通路を介して接続され、開業当日から乗換駅となる。

東武鉄道の新造車両「70090型」(画像提供・東武鉄道株式会社)
乗車イメージ(画像提供・東武鉄道株式会社)
ロングシート(画像提供・東武鉄道株式会社)
クロスシート(画像提供・東武鉄道株式会社)
座席背面にコンセントやドリンクホルダー、荷物フックを用意している(画像提供・東武鉄道株式会社)

 また新駅の開業に伴い日比谷線の駅ナンバリングが変更される。現在、中目黒の「H-01」から始まり、神谷町「H-05」、霞ケ関「H-06」と来て、北千住「H-21」まで設定されているが、神谷町と霞ケ関の間に新設される虎ノ門ヒルズ駅に「H-06」が新たに割り充てられ、それ以降の駅は、霞ケ関の「H-07」から北千住駅の「H-22」まで番号が振りなおされる。もっとも駅ナンバリングは訪日外国人旅客を主眼に置いた案内方法であり、日常的な利用には大きな影響はないだろう。

 初の速達列車

 そして、もうひとつの大きな変化が、同6月6日から運行を開始する座席指定列車「THライナー」の新設だ。「TH」には東武(TOBU)と日比谷線(HIBIYA)、東京都心(TOKYO)と自宅(HOME)を結ぶライナーという意味が込められているという。

 運行本数は上り列車が朝ラッシュ時間帯の前後に伊勢崎線久喜駅から日比谷線恵比寿駅まで各1本(計2本)、下り列車が夜ラッシュ時間帯に霞ケ関駅から久喜駅まで毎時1本(計5本)。土休日も時刻を変更して同じ本数が運行される。

 思い切りを感じるのがその停車駅だ。上り・下り列車とも東武伊勢崎線・東武スカイツリーライン内は久喜、東武動物公園、春日部、せんげん台、新越谷の5駅のみの停車で、北千住駅では運転士が交代するための停車はするが乗降はできない。これまで東武線から日比谷線には普通列車のみが乗り入れていたが、初めて速達列車が運行されることになる。

 さらに日比谷線内も北千住~霞ケ関駅間のうち、上野、秋葉原、茅場町、銀座の4駅以外は通過する。これも日比谷線の定期列車としては初めてのことだ。もっとも先行列車を追い越しする設備がない日比谷線内での通過運転は半ば演出的なもので、実際には営業施策上、停車駅の絞り込みが必要だったことと、乗降時間を確保するための措置であろう。

 ちなみに恵比寿行き上り列車は、乗客を全て下した後、恵比寿駅の先にあるポイントで折返しするという。中目黒行きとせず恵比寿行きとしたことについて、東京メトロ広報部は旅客の需要等から判断したとしているが、東急電鉄が管理する中目黒駅での取り扱いを避けたいという思惑もあるのだろう。

 座席指定券の販売方法に注目

 ここ10年で首都圏私鉄各社に急速に広がっている座席指定列車。この潮流を作り出した元祖ともいえる存在が、東武鉄道が2008年6年から東上線で運行を開始した「TJライナー」だ。

 それまでも既存の有料特急列車を朝・夕に「通勤ライナー」として運行する例はあったが、座席の方向を切り替えて普通列車としても使えるロング・クロスシート転換車両を導入することで、これまで有料特急列車を運行していなかった路線にも設定が可能になったのである。THライナーでも、座席の転換が可能な専用の「70090型」車両を4編成新造し運行に充てる計画だ。

 詳細な運行時刻や料金などは別途発表とのことであるが、注目したいのは座席指定券の発売方法だ。現在、東京メトロに乗り入れる小田急の「特急ロマンスカー」、西武鉄道の「S-Train」はホーム、改札で券売機による指定席券販売を行っているが、券売機の新設や維持管理にはコストがかかるだけでなく、発車間際に利用が集中してしまう問題がある。2019年10月から日中の快特列車に指定席「ウィング・シート」を導入した京急電鉄は、座席指定券(Wing Ticket)をチケットレスに限定しており、THライナーでもこうした新たな仕組みの導入に踏み切るかが注目される。

枝久保達也(えだくぼ・たつや) 鉄道ライター
都市交通史研究家
1982年11月、上越新幹線より数日早く鉄道のまち大宮市に生まれるが、幼少期は鉄道には全く興味を示さなかった。2006年に東京メトロに入社し、広報・マーケティング・コミュニケーション業務を担当。2017年に独立して、現在は鉄道ライター・都市交通史研究家として活動している。専門は地下鉄を中心とした東京の都市交通の成り立ち。

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