【ローカリゼーションマップ】秩序の優先度は「東京>ロンドン>ミラノ」 横断歩道は文化差異を再考させる

 
※画像はイメージです(Getty Images)

 ロンドン市内の横断歩道を渡ろうとしたとき、一緒にいたイタリア人の友人に「ここはミラノじゃない。赤信号で渡るには気を付けろ!」と注意された。そう、クルマがスピードを落とさずにグングンと迫ってきたのだ。

 ミラノでは信号の色とは関係なく、クルマがいなければ、いや、いてもクルマが接近するまでにまだ距離があれば、歩行者がどんどん道を渡るのは普通だ。ただし、それでも以前と比較するならば、運転をする人も歩く人も信号の色を守るようにはなった。

 信号の上に監視カメラがあり、クルマの信号無視には罰金が厳しく課せられるようになったためで、それと並行して歩く人の行動パターンにも変化が見られる。それでも歩く人の信号軽視は普通で、クルマの運転もその動きを想定している場合が多い。

 このミラノの習慣でロンドンの横断歩道を、ぼくは「強気」で渡ろうとしてしまったのだ。そしたら、クルマが急接近してきた。ここはロンドンだと気づいたのである。

 しかしながら、その後、「あれっ、ロンドンのドライバーは歩行者をもっと優先していなかったっけ?信号無視であっても!」と思い起した。そういえば、その昔、「東京のドライバーは歩行者への配慮が低いが、ロンドンの運転者は歩行者を優先する態度をとる」というセリフが、日本の中で流通していたことを思い出したのだ。あれは何十年前の話だっただろう(逆に、東京では信号無視の歩行者が増えている印象があるが、どうなのだろう)。 

 この話から「秩序優先の社会」という言葉が思い浮かんだ。

 東京、ロンドン、ミラノの3つの都市を比べると、この順で秩序が優先され、赤信号で歩道を渡ろうとする「けしからぬ」人は生きづらいのでは、と思ったのである。

 何も信号無視を礼賛しているのではない。秩序への尊重度をうまく抑えておかないと、自分の命を守りにくいのである。また精神的バランスもとりにくい。

 ミラノで秩序の重視を貫いていれば、本人の自己満足度は高いかもしれないがストレスフルである。が、そうだからといって、ストレスを避ける行動が身についていると、秩序を重視する他の社会で衝突が生じやすくなる。

 大げさな表現をあえてとれば「異文化の衝突」である。もちろん、ことはすべての面で適用される。

 日本からイタリアの小学校を視察に来た人が語った感想が頭によみがえってくることがたまにある。

 「イタリアの子供たちは自由そうでいいですね。しかし、学校は子供たちが社会に出たときに秩序を乱さないような教育をするのが大切という点からすると、これはどうなんでしょう?」と彼は呟いたのである。

 小学校の教育の目的として、秩序を守ることを筆頭に挙げること自体を再考するには至らないのだな、とぼくは思った。

 そんなことを冒頭で紹介したイタリア人の友人と酒を飲みながら話していると、「イタリアは個人を優先し過ぎかもしれない」と彼は言った。

 このように文化の差異について触れてきて、また別のことをぼくは想起する。

 グローバルに通用する考え方への尊重を第一に思う人は、文化の差異を「アクセサリー」のように見がちである。彼らは文化要素を無視するわけではないが、文化要素を強調する人を自分たちより「後進的」であると考えることがある。ユニバーサルあるいはインターナショナルな価値観は何よりも優位に立つ。そう思いたい人たちである。

 傍観的に言っているように聞こえるかもしれないが、実はぼく自身の中にも、この性向がないわけではない。一方で文化を語ることが好きで、文化パターンを軽く見る人を「後進的」であると思う、もう一人の自分がここにいる。

 文化要素の勘案は時と場合による、と言い切ってしまうと、身もふたもない。そんなの当たり前じゃない。唯一言えるのは、次のようなことじゃないか。

 文化要素を閉鎖性の理由、または現象をネガティブに捉えるための方便に使うのはいただけない。他方、解放性の実現のため、または現象をポジティブに捉えるためのツールとするのは歓迎すべきではないか。

 とまあ、ロンドンからミラノに戻る機内でこんなことをつらつらと考えていた。

【プロフィール】安西洋之(あんざい・ひろゆき)

モバイルクルーズ株式会社代表取締役
De-Tales ltdデイレクター

ミラノと東京を拠点にビジネスプランナーとして活動。異文化理解とデザインを連携させたローカリゼーションマップ主宰。特に、2017年より「意味のイノベーション」のエヴァンゲリスト的活動を行い、ローカリゼーションと「意味のイノベーション」の結合を図っている。書籍に『イタリアで福島は』『世界の中小・ベンチャー企業は何を考えているのか?』『ヨーロッパの目 日本の目 文化のリアリティを読み解く』。共著に『デザインの次に来るもの』『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか?世界で売れる商品の異文化対応力』。監修にロベルト・ベルガンティ『突破するデザイン』。
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ローカリゼーションマップとは?
異文化市場を短期間で理解すると共に、コンテクストの構築にも貢献するアプローチ。

ローカリゼーションマップ】はイタリア在住歴の長い安西洋之さんが提唱するローカリゼーションマップについて考察する連載コラムです。更新は原則金曜日(第2週は更新なし)。アーカイブはこちら。安西さんはSankeiBizで別のコラム【ミラノの創作系男子たち】も連載中です。