Aクラスの試乗会にあの富士を使用?
AMGから試乗会の招待が届いたのは12月初旬のこと。場所は富士スピードウェイ。雪で閉鎖の可能性があるこの時期にサーキット試乗会が開催されていることに首を傾げた。
だがそれよりも、富士スピードウェイを使ってまで試さなけばならないモデルがあっただろうか。レーシングカーならまだしも、グランプリサーキットでなければならない市販車があったのか。慌ててAMGのモデルラインナップを頭に思い浮かべてみた。
聞けば、試乗モデルは「AMG A45 S 4マチック+」だという。相当に高性能だから、富士スピードウェイでなければ試せないとも言うのだ。
最近、東京近郊にも手頃なサーキットは少なくない。筑波サーキットはタイムアタックのメッカとして有名であり、袖ケ浦フォレストスピードウェイも頻繁に試乗会が開催されている。わざわざ富士スピードウェイを貸し切らなくても、市販車の試乗会は可能なように思えた。ましてや試乗車は、いくらAMGの手になると言っても、ベースはAクラスである。ナメていたことを、その直後に反省することになる。
走りはじめた瞬間に、富士スピードウェイで開催した理由を理解した。とてもじゃないけれど、ミニサーキットで性能を味わうには、A45 S 4マチック+のパフォーマンスは過激すぎる。
搭載するエンジンは、たかだか2リッターの直列4気筒ターボである。だが、最高出力が「421ps」だと聞けばいかがだろう。最大トルクは「500Nm」に逹する。1リッター当たり200psオーバーという値は、一昔前ならば大径タービンを無理やり押し込んで、エンジンブローを覚悟した上でようやく踏み込める激辛チューニングの世界である。それが、さらりと保証もついた市販モデルに搭載されるというのだから、技術の進歩には驚くばかりであり、それを開発するAMGの武闘派気質には頭が下がるのだ。
驚愕のスピードとコーナリング性能
実際には走らせると、富士スピードウェイの直線で263km/hに到達した。5リッターだ6リッターだのスーパーカーなら理解できなくもない。だがA45 S 4マチック+は、青山あたりをトロトロ流しているキュートなAクラスなのである。それがただならぬ速度で駆け抜けるのだから恐れ入る。
しかも驚きは、コーナリングが整っていることだ。4WDの悪癖の一つが抑えられているのである。アンダーステアが顔を出さないのだ。
というのも、前後へのパワーを最大「フロント100:リア0」から「50:50」までオートでコントロールさせる。しかもリアタイヤへ導かれるパワーは、左右に可変する。ドライバーがもっと曲がりたいと意思を伝えれば、パワーを適切なタイヤに分け与えて整える、といった芸当をこなすのである。
アンダーステアが軽微というレベルではなく、むしろテールをスライドさせ、時にはカウンターの必要に迫られるほど、挙動の出し入れは自由自在なのである。もちろん電子制御モードは「レース」である。
F1レースも開催したグランプリサーキットを、縦横無尽に駆け抜けることができた。1.5kmものロングストレートがアッという間に過ぎ去ったのである。AMGが、こんな小粒なAクラスにまで、世界一過激な魂を注ぎ込んでいることに驚かされた。
【試乗スケッチ】は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【クルマ三昧】はこちらからどうぞ。