鉄道業界インサイド

定期券の買い替えシーズン 実は各社で異なる割引率、窓口に並ばず買う方法も

枝久保達也

 定期券運賃を比較

 まもなく4月。定期券の買い替えシーズンが始まる。定期券は鉄道を利用する上で、最も高価な「商品」のひとつともいえる。会社が通勤費を負担してくれる会社勤めの人も、定期券をうまく使いこなすことで通勤を楽にすることが可能だ。これから定期券の買い替えを検討している人のために、知っているようで知らない定期券の基礎知識を紹介しよう。

東京駅の「みどりの窓口」(SankeiBiz編集部)
東京メトロの「春の定期券購入キャンペーン」を告知するポスター(SankeiBiz編集部)

 意外と知られていないのは、定期券の割引率は各社で異なるということだ。運賃が高い、安いといった判断をする場合、初乗り運賃を比較することが多いが、初乗り運賃が136円(特定電車区間、IC運賃)のJR東日本と、東京圏では最も安い126円の京王、東急、小田急の定期券運賃を比較してみよう。

 例えば10km乗車した時の普通運賃は、JRは168円、1カ月通勤定期券は5270円(割引率48%)。京王は178円、1カ月通勤定期券は6680円(割引率37%)。東急は199円、1カ月通勤定期券は7530円(割引率37%)。小田急は220円、1カ月通勤定期券は7240円(割引率45%)だ。

 初乗り運賃が同じでも、10km乗車時の普通運賃には差がついていることが分かる。さらに定期運賃を比較すると、2000円以上もの開きがある。国鉄の流れをくむJRは定期券の割引率が高く、京王と東急は割引率が低い。つまり目的地まで複数のルートがある場合、JRの区間を長くした方が定期券は安くなる。

 さらに割引率が低いのは地下鉄だ。東京メトロの場合、10km乗車時の普通運賃は199円、1カ月定期券は7800円。1カ月定期券の割引率は35%だ。こうなると、土休日に定期券を使わない人で、休日が多い月の場合、定期券を購入しない方がお得になるケースまで出てくる。

 そんなことがあり得るのかと思うかもしれないが、普通券を購入して乗車する場合、19日×199円×往復=7562円、20日×199円×往復=7960円なので、利用日数が19日以下の場合は定期券を買うより安くなるのだ。回数券を購入すれば9%割引になるので、さらにお得に利用することができる。

 また、西武、東武、小田急、京王は、行きと帰りで異なるルートを使用することができる特殊な定期券を発売している。例えば西武池袋線で地下鉄直通ルートの定期券を持っている人が西武池袋間を利用する場合、通常は運賃精算が必要だ。しかし定期券購入時に2000円追加して特殊定期券「だぶるーと」にすると、行きは練馬・小竹向原経由で地下鉄直通列車を利用し、帰りは西武池袋駅から乗車することが可能になる。つまり、始発列車で座って帰ることができるようになるというわけ。20日使えば1日100円。通勤ライナーに乗るよりも安上がりだ。

 窓口に並ばず受け取り

 定期の買い替えシーズンといえば憂鬱なのが定期券うりばの行列だ。しかし最近、一部の鉄道事業者が定期券予約サービスを開始しており、これを活用すれば、窓口に並ばずに定期券を受け取ることが可能だ。

 東京圏で予約サービスを行っているのは、JR東日本、東京メトロ、東急、京王の4社。予約はPC、タブレット、スマホなどから各社の専用webサイトに接続し、「使用開始日」「区間(経由)」「氏名」「電話番号」などを入力するだけだ(ただし複雑なルート、特殊な定期など予約サービスを利用できない定期券もあるので注意。詳しくは各社公式サイトを確認してほしい)。あとは予約時に発行される「予約番号」を駅の券売機に入力するだけ。その場で予約した内容の定期券が発行される。支払いは受け取り時に券売機で行う。手数料や割引などはない。

 もうひとつ、東京圏の私鉄利用者に待望されていた「モバイルPASMO」が、いよいよ3月18日からサービスを開始(当面はAndroid端末のみ)した。これにより、アプリをダウンロードし、本人名義のクレジットカードを登録するだけで、大手私鉄や都営地下鉄を中心とした東京圏のほとんどの路線の通勤定期券をスマホで購入することが可能になった。自社発行のクレジットカードしか使えなかった東武鉄道など一部の鉄道事業者も、モバイルPASMOであれば通常のクレジットカードで定期券を購入できるようになる。こうしたサービスを活用して、少しでもお得に、快適に通勤してみてはいかがだろうか。

枝久保達也(えだくぼ・たつや) 鉄道ライター
都市交通史研究家
1982年11月、上越新幹線より数日早く鉄道のまち大宮市に生まれるが、幼少期は鉄道には全く興味を示さなかった。2006年に東京メトロに入社し、広報・マーケティング・コミュニケーション業務を担当。2017年に独立して、現在は鉄道ライター・都市交通史研究家として活動している。専門は地下鉄を中心とした東京の都市交通の成り立ち。

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