日産GT-Rが世界最高峰のスーパースポーツであることは論を俟たない。世界一過激なニュルブルクリンクで鍛え上げられ、2007年のデビューイヤーには最速記録を樹立、世界の注目を集めた。
実際に僕も、ドイツの速度無制限ハイウェイのアウトバーンで、300km/h巡航を経験している。3.8リッターV型6気筒ツインターボエンジンと優れた4WDシステムを武器に、挑むサーキットで次々とコースレコードを叩き出しているばかりではなく、公道でも武闘派を演じているのだ。
誕生からすでに13年
そんなGT-Rも、誕生からすでに13年が過ぎた。早ければ4年サイクルでフルモデルチェンジが繰り返される日本では異例の長寿である。それをカルロス・ゴーン時代の負の遺産とする意見も少なくないが、技術が日進月歩で進化する現代にもかかわらず、性能至上主義のGT-Rがいまだに一線級で活躍できるのはミステリアスである。
もちろん日産も、ただ放置してきたわけではない。超過激な「GT-Rニスモ」をラインナップに加えたり、豪華仕様を開発したりと、鮮度を保つための措置を続けている。日産再生の象徴としても手の抜けないモデルなのだ。
今回、2020年モデルをドライブしてみて、GT-Rの凄みと悲哀と、圧倒的なパフォーマンスを確認した次第だ。2020年モデル最大の個性は、優しさである。デビュー直後は、ドライバーを選び、我慢を強いた。確かに記録を塗り替えてはいたが、コンディションを完璧に整えた上で、GT-Rを熟知したドライバーがアタックした時のみに微笑んだ。その条件に満たなければコントロールに手を焼くじゃじゃ馬だったのである。
走り始めて最初に口をついた言葉
だが、2020年モデルはかつてのカミソリのような硬派な乗り味ではなく、柔軟な味付けに衣替えしたことが分かる。「あれ、こんなに乗り心地が良かった?」。走り始めて最初に口をついた言葉がこれだ。頼りなさはもちろんないが、脳天を突くような荒い突き上げはなく、雑音も抑えられている。これなら、通勤通学にも使えなくはなさそうだな、と一旦は考えてしまうほどの柔軟性なのだ。実際に通勤通学に使うには、様々な障害が考えられるのだが…。
それでいて、戦闘力が削がれているわけではないから驚きである。エンジンパワーはデビュー時から大幅に引き上げられ、最高出力は570ps/6800rpmに達した。最大トルクは驚愕の637NM/3300~5800rpmである。それを、前後の駆動トルクを可変する特殊な4WDシステムを介して路面に伝えるのだ。先日、筑波サーキットのアタックで、最速となる59秒台を記録したばかりである。優しくはなっても、丸くはなっていないのである。戦闘力にひとかけらも影はない。
ちなみに、GT-Rのワイパーは、300km/hでも機能するように開発されている。それが何を意味するか。300km/hに到達する性能を盛り込みながら、たとえそれが雨の日であっても挑めるほどの安定性を盛り込んだことの証なのである。この世界にウエット路面での300km/hに挑む人間がいるとは思えないが、日産がGT-Rに込めた志はその世界にある。日産のスポーツカーを背負う重圧と、圧倒的な破壊力を秘めている。日本にも、世界をあっと言わせるスーパースポーツカーが存在している。そのことだけでも誇らしい。
【試乗スケッチ】は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【クルマ三昧】はこちらからどうぞ。