教育・子育て

若手研究者にもコロナの影 「自分だけ社会に役に立たない研究をしていて…」

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響は若手研究者の活動にも暗い影を落としている。今春、龍谷大大学院理工学研究科の博士課程を修了した西村涼さん(26)は4月下旬からオランダの大学で研究生活を始める予定だったが、渡航制限を受けて延期を余儀なくされた。国内では緊急事態宣言が解除され、少しずつ日常が戻り始めたが、いまだ渡航のめどが立たない状況。それでも西村さんは「今できることをやるしかない」と前を向く。(花輪理徳)

 西村さんは光を当てると形状や性質を変える結晶についての研究に従事。博士課程進学と同時に、優れた若手研究者に研究奨励金を支給する日本学術振興会の特別研究員(DC1)に採用された。今春、通常は3年かかる博士課程を2年で修了。「分子機械の設計と合成」で2016年のノーベル化学賞を受賞したベルナルド・フェリンガ教授が在籍する世界最先端の研究拠点として知られるオランダの名門、フローニンゲン大への留学が決まった。

 留学は来年3月末までの約1年間の予定で、給料は出ない訪問研究員としての立場だが、成果次第で次の1年間はポストを得られる可能性もある。「思ってもみないチャンス。厳しい世界だけど、経験は無駄にはならないはずだ」。期待に胸を高鳴らせて出発の日を待っていたが、感染拡大の影響で予定していた4月20日の飛行機のフライトがキャンセルとなり、渡航の見通しが立たなくなってしまった。

 西村さんは「そのころには、日本よりもヨーロッパの方が深刻な状況だった。大学が閉鎖されていて、9月まで授業が再開しないと聞いた。とても受け入れてもらえる状況じゃないと思った」と振り返る。

 出発までに予定していた国内の学会も相次いで中止に。「スライド作りなどの雑務がなくなり、じっくり実験ができる」と思ったのもつかの間。龍谷大の実験室への立ち入りも原則禁止された。

 毎日午前9時から午後10時まで瀬田キャンパス(大津市)の研究室に通い詰める日々から一転、滋賀県彦根市の自宅で文献を読んだり、論文を書いたりして過ごすことを強いられるようになった。「テレビを見ていると、これだけ大変なときに、自分だけ社会に役に立たない研究をしていてよいのかと思うこともある」と打ち明ける。

 西村さんの指導にあたった同研究科の内田欣吾教授は「彼にとって不幸な出来事だ」と残念がる一方で、「今後のための自省の時間にもなるだろう。図らずも自分の時間ができたこの間に、普段は実験に追われてできないアイデアの整理や論文の執筆に向き合わなければいけない」と話す。

 内田教授に発破をかけられた西村さんは、出発までの投稿を目指し、論文を仕上げる作業を進めている。「正直、早く実験台に立ちたい焦りもあるし、ビザの心配もある。第2波、第3波を考えると渡航がいつになるかも分からない」と不安は尽きないが、「オランダでの研究をやりとげ、向こうでそれなりのレベルの論文を1報でも出せるようにするためにも、今は目の前の研究を頑張っていきたい」と意気込んでいる。