新時代のマネー戦略

積立はなぜ「ひし形」が良いのか 家計を動かす収入エンジンの見直し方

井上信一

 前回は、「二毛作・三毛作的な働き方で給与以外の収入を増やす」ことを提案させていただきました。ですが、家計の収入源は、働くことで得られる「就業収入」だけではありません。

 この収入源をエンジンに例えるなら、メインエンジンの「就業収入」以外に、第2エンジンの「資産収入」、そして第3エンジンである「保険収入」という補助エンジンがあります。3つのエンジン(収入源)をバランスよく持つことで、いずれメインエンジンが機能しなくなっても、残り2つの補助エンジンで、安心で快適な家計の営みを継続することはできます。

 第2エンジン「資産収入」は未来へのプレゼント

 資産収入で連想されるのは、投資用不動産などによる賃料や、株式・投資信託などの配当金・分配金や利子、あるいは資産運用による売却益でしょう。しかし、不動産のオーナーになるには、そもそも多額のお金が必要です。収入と呼べるほどの配当金などを得るには、企業の大株主のように、やはり相応の出資が必要です。お金を生む資産に組み換えるための元手が潤沢なら話は別ですが、そうそう誰にでも可能というわけではありません。また、資産運用をするにしても漠然としていては、それが家計にとっての収入となり得るかは不透明。大切な貯えをリスクのある資産に組み替えて良いものか、不安は絶えずつきまとうものです。

 ですが、当たり前のことですが、「お金は使うためにある」ものです。ならば、「いま、使わず将来使う時に持ち越し、その使う時期を明確」にして資産運用を行えば、運用資産から換金されたお金は過去の自分からのプレゼント、第2の収入と発想を変えることができます。

 ポイント:積立は「三角形」ではなく「ひし形」で

 資産運用として積立貯蓄や積立投資をされておられる方は少なくはないと思います。しかし、積立を行う時期は「毎月」などに分散されていても、「満期の時期」は往々に一時ではないでしょうか。こういう積立を「三角積立」とするならば、満期の時期も分散する「ひし形積立」をお勧めします。

 やり方は簡単。同じ運用・預入期間で金融商品を毎年購入するだけ。運用期間が同じなら、まるで定期収入のように、満期も毎年訪れます。実は筆者もこのひし形積立を20年以上前から毎年行っています。運用期間は少し長めですが、最初の満期は60歳なので、既に80歳までの定期収入を確保できた形です。

 選ぶ金融商品は、運用コストが安く、満期(償還)時までほったらかしにできる外貨建て割引国債(ゼロクーポン債 ※1) が多いので、毎月同額のお金で外貨を積立形式で投資し、1年間で貯まった外貨で、同じ証券会社経由にて(ゼロクーポン債を)購入しています。

 毎月同額投資であれば、為替の影響で円高(外貨安)の時は割安の外貨を多く買え、逆に外貨が割高なら少ししか買わないので、効率的に元手を増やせます。

 ひし形積立の利点は、購入時期と換金時期を分散できることにあります。資産運用においては資産や商品の分散より投資時期の分散と投資金額の少額分散が、よりリスク低減を期待できるのです。将来的に毎年の満期時に入ってくる収入の額は各年の運用成果により異なるものですし、金融機関がバラけ過ぎると管理は大変になりますが、毎年購入する金融商品はつど気になるものを選んでも良いと思います。これらの商品は別ものなので、各年の運用資産が合算されて残高が大きく変動することもありません 。

 また、筆者は老後資金目的で行っていますが、例えば家族で毎年海外旅行に行くのなら、期間短めで旅行資金のために始めるのも一考です。大きなお金を使う際に、貯蓄から取り崩すのではなく、「旅行用の収入が入ってくる」という発想です。

 第3エンジン「保険収入」は有事への備え

 家計にとっての3つ目のエンジンは「保険」で得られる収入です。ただし、これは他の収入源とは異なり、文字どおり有事の際などに働く予備エンジンです。家計における有事とは、「想定外の事態で収入が大きく減るか途絶する」、あるいは「想定外の事態で多額の出費が発生する」事態に他なりません。

 例えば、「まったく働けなくなったら毎月お金をもらえる」、「要介護状態になったら毎年お金をもらえる」、「事故を起こしてしまい億単位の損害賠償請求を負ったら代わりに支払ってもらえる」などが挙げられます。まさに、自分の生命や身体、あるいは事件や事故の遭遇を担保に得られる収入といえます。

 ポイント:8つのリスクをモレやムダなく考える

 「保険収入」を考える際に選ぶ金融商品は生命保険や損害保険などです。

 選び方のポイントとして、既に準備済みの「保険収入」のメインである公的社会保険(年金や健康保険など)や会社の保障では不足する分をカバーするのですが、そもそもどのような有事が想定されるのか考えることが大切です。そこで、家計における有事(リスク)を8つに整理しました。

 どのリスクを優先すべきか、準備済みの公的社会保険などの状況や個々のライフステージによって異なりますが、どのような有事(リスク)が身に降りかかるのかは誰にも予想はできません。モレなくムダなくバランスよく準備しておくのが肝要です。

 新たな収入を、支出や貯えからつくりだす

 お金の「使い上手は、貯め上手」とはよくいいますが、実は「調達上手」でもあります。

 大きなお金を支出する(せざるを得ない)場合、その時にたまたまある貯えから取り崩すことを考えがちですが、この発想だと旅行のような楽しみをセーブしたり、老後資金のように一体いくらあれば十分なのか不安になったりするものです。

 そうではなく、その時に「その使途を賄うための新たな収入が入ってくる仕組み」を持つことが、新時代のマネー戦略の発想です。

 「収入-支出=貯蓄」ではなく、支出も貯蓄も将来に必要な時の収入になり得るのです。

※1

【ゼロクーポン債】 償還(満期)金の額より割り引かれた額で購入する債券。その代り半年ごと等の利息(クーポン)がないためゼロクーポン債とも呼ばれる。日本で発行される割引債は個人では投資できないため、選択肢としては外貨建ての外国債券となる。購入する際の割引率は様々だが、一般的に償還(満期)までの期間が長いほど割引率が大きい。

井上信一(いのうえ・しんいち) ファイナンシャル・プランナー CFP(R)認定者
価値生活研究室 代表
10年強に渡るFP事業会社等での経験を経て2010年に独立。以来、「誰でもライフプランに基づくキャッシュフローを自分で作れる世の中へ。FPの仕事はその先」をモットーに、企業や労組の福利厚生支援やセミナー・個別相談・情報発信等に従事。主な著書に「保険設計ベスト事例集」(きんざい)等。また、地域の権利擁護事業を通した福祉活動も活発におこなっており、成年後見人としても受任中。

【新時代のマネー戦略】は、FPなどのお金プロが、変化の激しい時代の家計防衛術や資産形成を提案する連載コラムです。毎月第2・第4金曜日に掲載します。アーカイブはこちら