新型アコードが今年2月、日本に導入された。ホンダの正統派セダンとして1976年にデビューしたアコードは、現行モデルで10代目となる。新型も同様に、多くの販売増が期待されている。とはいうものの、首をかしげざるを得ないポイントも少なくない。
戦略的な苦悩と決断
この新型アコードは、実は2年半前の2017年秋には完成している。アメリカ市場ですでに販売されているのである。当初はガソリンモデルだけのデビューだったが、後を追うように追加されたハイブリッドも2018年にはアメリカの地を走っている。そればかりか、世界最大のマーケットである中国でも販売され、生産工場のあるタイでもデビューを終えている。本家である日本が2年半遅れで導入されるという特殊なケースなのだ。
ボディスタイルも特徴的である。これまでの、正しく整った3ボックススタイルを捨てた。新型はスラントしたリアエンドが印象的な4ドアクーペとなってお披露目となったのだ。イメージチェンジに挑んだことは明らかである。
実はこのあたりに、アコードの戦略的な苦悩と決断が確認できる。つまり、すでに日本はアコードにとって魅力的なマーケットではなくなったということだ。特にアメリカへの輸出依存度の高いホンダは、まずもっとも大切な、つまり台数が稼げるアメリカに投入する手法をとった。さらに中国に期待してアジアの拠点としてタイを選んだということである。
できれば世界同時デビューがプロモーション的には華々しく、存在感あるインパクトが期待されたのだろうが、生産の都合により、つまり、一度にたくさんのアコードを生産できないという事情により、日本市場は後に回されたのだ。ちなみに、今回日本仕様となったアコードは、ハイブリッド仕様のみの設定である。バッテリー供給がネックになったのだと想像する。
大衆車の主流がセダンからSUVへ移り変わったことも、アコードの日本市場投入を遅らせた理由と無縁ではない。SUV人気は世界的な潮流である。しかも日本はその傾向が顕著である。アコードが属するミドルセダンの販売は強い傾斜で右肩下がりである。
クーペスタイルで若返り
新型アコードが4ドアクーペスタイルとなったのは、若返りである。アコードの購入層は圧倒的に代替えが多いという。それだけアコードが、一度乗ったら続けて所有したいモデルであることでもある。愛されているのだ。だがそれはつまり、ユーザーの高齢化でもある。アコードが今後、末長く愛され続けていくには、若返りも急務なのだ。それが保守的な3ボックスセダンではなく、よりスタイリッシュなボディフォルムとなった理由である。
内外装のデザインは、ホンダ特有のゴテゴテしたものではなく、明らかにさっぱりしている。落ち着きがある。「若いガンダム世代には機械的なデザインがウケる」-。そんなかつてのコメントと、さっぱりした内外装で若者のハートを引きつけようとするアコード若年化の手法に整合性はないが、ともあれ、ホンダ流の若返りなのだと解釈しよう。
乗り味は保守的、完成度は整っているが…
肝心の乗り味は徹底的に保守的だ。ハイブリッドシステムは完成度が高く、EVとガソリン駆動の連携がいい。電気モーターでスムーズに加速し、気がついたらエンジンに受け継いでいた、といった流れが整っている。力強さはない。だがパワー不足は感じない。
操縦特性にもスポーツ度は感じられない。スタイルはクーペ風になったものの、走りは穏やかなままだ。特に際立っていたのは静粛性だ。エンジンや電気モーターや、あるいはボディが切り裂く空気の存在やロードノイズすらも耳に優しい。その点でも完成度が高いと思えた。かつてのアコードよりもはるかに大人になったのだ。
いい意味で言えば、完成度が整っている。悪い意味で言えば無個性だ。もはや切れ味の鋭いハンドリングだけが若者向けでもないし、船のように緩やかなフットワークが高齢者の好みでもない。だが、無個性なのは少し物足りないように感じた。ホンダらしくない。シュリンクした日本のミドルセダンの市場で、新型アコードの模索がどう評価されるのかは未知数である。まず、ホンダがブレない軸を持つ必要がある。
【試乗スケッチ】は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【クルマ三昧】はこちらからどうぞ。