新型コロナウイルスの感染拡大以降、通勤形態や就業形態を含め、生活スタイルが大幅に変わったという読者は少なくないだろう。多くの企業がテレワークを導入、拡大する中、テレワークを基本の勤務形態とする企業も増えつつある。また巣ごもり需要が増加し、amazonやYahoo!ショッピング、楽天市場などECモールの売上が急増しているという。
その結果、大きな影響を受けているのが人の移動によって成り立つ交通業界だ。JR東日本の月次情報によれば、同社の鉄道営業収入は、今年4月は対前年同月比76%減、5月は71%減、6月は46.7%減、7月は53.5%減と前年を大きく下回ったまま推移している。この結果、4月から6月までの第1四半期の決算は発足以来初となる1553億円の赤字を計上した。
第一の変化は来年春に訪れる
JR東日本の深沢祐二社長は7月7日の定例社長会見で「以前のように利用客は戻らないと思う」とした上で、「長期的に経営が成り立つ形で、さまざまなコストやダイヤ、運賃の見直しのため検討を深めている」と述べ、経営のあり方を大きく転換していく意向を表明した。苦境に陥っているのは大手私鉄も同様である。これから数年間のうちに、満員の通勤電車によって成り立っていた都市部の鉄道サービスは、その姿を大きく変えていくことになるだろう。
第一の変化は来年春に訪れる。JR東日本は9月3日、新型コロナウイルス感染症の流行を契機とした利用者の行動様式の変化により、特に深夜時間帯の利用が大きく減少しているとして、東京から100km圏の各路線において、来年3月のダイヤ改正で終電時刻の繰り上げを行うと発表した。具体的には、現行より最大で30分程度繰り上げて、終着駅の到着時刻を概ね1時頃とする。また一部の路線では初電の繰り下げも行う。
JR東日本によれば、山手線の終電付近(0時台)の利用者はコロナ前と比較して66%も減少しているという。利用実態に合わせたダイヤとすることで、深夜帯の営業コストを削減したいという恰好だが、終電繰り上げの目的はそれだけではない。終電から初電までの間隔(列車間合い)を約240分(4時間)程度確保することで、夜間に行われる線路などの保守点検の作業効率を改善するとともに、労力軽減と工期短縮により作業員の働き方改革を後押しするのが、もうひとつの目的だ。
例えば現在、京浜東北線の東京駅発南行最終電車は0時49分発蒲田行で、蒲田には1時11分に到着する。一方、蒲田駅北行初電車は4時22分発大宮行きなので、蒲田駅の列車間合いは3時間強しか確保できていない。これを240分とするためには、終電を30分繰り上げ、初電を20分繰り下げる必要がある。自身の利用路線がどうなるか気になる読者も多いと思うが、実施線区や内容については10月頃に発表予定とのことだ。
運賃制度の見直し
第二の変化は数年以内に訪れる運賃制度の見直しだ。JR四国は8月31日の会見で、新型コロナウイルスの影響で減少した収入の回復が見込めないとして、運賃値上げの検討を開始すると表明している。コロナ以前から経営危機に瀕していたJR四国と都市部の鉄道事業者は単純比較できないものの、運賃値上げは他の鉄道事業者にも波及する可能性がある。
その中でもユニークなアイデアを検討中なのがJR東日本だ。同社は2~3年後をめどに、定期券運賃を値上げする一方で、混雑していない時間帯のみ使用できる割安なオフピーク定期券を新設する計画だという。
ただしこれは増収策というわけではなく、定期券運賃の値上げによる増収分と、オフピーク定期券の導入による減収分で、プラスマイナスゼロになるように考えているようだ。だが、朝ラッシュ時間帯の輸送力を確保するために莫大な投資をしている鉄道事業者としては、利用が平準化され、ピークが解消されれば経営効率が改善するというメリットがある。これもまた、鉄道サービスをサスティナブル(持続可能)に提供していくための、構造改革の一環というわけだ。鉄道は今、100年に一度の変革期を迎えている。
【鉄道業界インサイド】は鉄道ライターの枝久保達也さんが鉄道業界の歩みや最新ニュース、問題点や将来の展望をビジネス視点から解説するコラムです。更新は原則第4木曜日。アーカイブはこちら