1両ごとに異なる多彩な座席
今年9月にデビューしたJR西日本の長距離列車「WEST EXPRESS 銀河」が、12月12日から大阪駅~下関駅間で運行を開始する。この列車、当初は5月から9月まで京都・大阪~出雲市間で運行を開始し、10月からは「広島デスティネーションキャンペーン」にあわせて山陽方面に行き先を変更する予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響により運行開始が延期され、山陽方面への運行も延期されたという経緯がある。感染防止策を講じた上で、定員を減らしての運行開始となったが、申し込み多数で抽選販売を行っているという。
JR西日本が「WEST EXPRESS銀河」の構想を発表したのは2016年11月29日、同社が2017年6月から運行を開始したクルーズトレイン「TWILIGHT EXPRESS瑞風」の記者会見の場であった。こうした列車が構想段階で発表されるのは異例のことだったが、その裏側には来島達夫前社長の、この列車にかける熱い思いがあったという。
「TWILIGHT EXPRESS瑞風」は1989年から2016年まで運行された寝台特急「トワイライトエクスプレス」を受け継ぐフラッグシップトレインとして製造され、JR西日本管内各地域の魅力を地元と一体となって発信する列車として位置づけられた。しかし、同列車の旅行商品は大人1人あたり1泊2日で約30万円からと、かなりターゲットが絞られた列車であることは否めない。そこで、より広いターゲットに向けて、より身近に地域の魅力を発信するための列車として「WEST EXPRESS銀河」が企画された。それ故、発表の場は「TWILIGHT EXPRESS瑞風」の記者会見でなければならなかったというわけだ。
製造費数十億円と見込まれる「TWILIGHT EXPRESS瑞風」に対し、「WEST EXPRESS銀河」は、1979年にデビューし、新快速として運用されていた「117系」車両の改造車である。車齢40年の古参車両であるが、改造の度合いも半端ではない。デザイナーとして株式会社イチバンセン一級建築士事務所の川西康之氏を起用し、コンセプトや車内設備の構成から乗務員の接客までトータルコーディネート。車体はJR西日本管内の美しい海や空を表現した「瑠璃紺(るりこん)色」に染め上げた。
座席は1両ごとに異なるタイプを配置し「多様性」を具現化。2号車・3号車の普通車の他に、1号車にはグリーン車指定席の「ファーストシート」、2号車と5号車には横になれる簡易寝台のノビノビ座席「クシェット」(2号車は女性専用)、3号車にはコンパートメントの「ファミリーキャビン」、6号車にはグリーン個室の「プレミアルーム」を用意し、多様な旅のスタイルに対応できるようにしている。
「夜行」開拓の余地はあるか
特に注目されたのが、横になって寝ることができる「ノビノビ座席」の存在だ。かつて東京~大阪間を結んだ夜行急行列車「銀河」の名前を受け継いでいることから、新たな「夜行列車」の誕生として取り上げられることも多かったが、JR西日本によれば「銀河」の名称は西日本エリアを宇宙に、各地の魅力的な地域を星になぞらえ、それらの地域を結ぶ列車という意味を込めたとのこと。
実際、山陰方面へは、下り列車は午後9時15分に京都駅を出発し、出雲市駅に午前9時31分に到着。上り列車は午後4時に出雲市駅を出発し、午前6時12分に大阪駅に到着する「夜行列車」となったが、山陽方面へは、下り列車は午前7時20分に大阪駅を出発し、午後7時45分に下関駅に到着、上り列車は午前10時40分に下関駅を出発し、午後10時30分に大阪駅に到着と「昼行列車」として運行される。行き先ごとに旅のスタイルや途中駅の車窓などを考慮して運行時間を設定しているとのことで、単純に夜行列車「銀河」が復活したというわけではない。
とはいえ、この時代に夜行を想定した設備を持つ車両を導入するというのはJR西日本にとっても大きなチャレンジだったはずだ。車齢40年の「WEST EXPRESS銀河」は、そう遠くない時期に車両としての寿命を迎える。「夜行」に開拓の余地はあるか、この「次」をどうするか、利用状況や反応を見ながら水面下で検討が進められていることだろう。JR西日本、地域、利用者のそれぞれがこの列車をどのように育てていくか、注目したい。
【鉄道業界インサイド】は鉄道ライターの枝久保達也さんが鉄道業界の歩みや最新ニュース、問題点や将来の展望をビジネス視点から解説するコラムです。更新は原則第4木曜日。アーカイブはこちら