安倍政権から菅政権に移行し、未来の日本を支える政策として一丁目一番地である少子化対策はどのように進むのでしょう。過去30年以上少子化を克服しようと試み失敗を続け、コロナの影響もあり少子化ペースは加速の一途を辿っています。そんな中で報じられた与党内での出産育児一時金の増額は少子化克服にどの程度寄与するのでしょう。
出産費用はいくらかかるの?
平成26年7月7日開催「第78回社会保障審議会医療保険部会」の資料によると、平成24年度の出産費用は最も高い東京都で586,146円、最も低い鳥取県で399,501円となっています。内訳は、入院料、室料差額、分娩料、新生児管理保育料、検査・薬剤料、処置・手当料、産科医療保障制度、その他(お祝い善など医療外費用)となります。地域の他にも、公的病院<診療所<私的病院の順に費用が高くなる傾向にあります。
出産育児一時金とは?
子どもを育てるにはお金がかかると言いますが、産むだけで40万円~60万円かかるとはおどろきです。こんなにお金がかかるのでは子どもを産むのも躊躇してしまいそうです。さらに出産は病気ではないため通常の分娩は病院で行われたとしても健康保険を使うことはできません。そのため、帝王切開等の医療行為が含まれない場合の出産費用は全額自己負担となります。
子どものころの昔話を読んでみれば自宅での出産が当たり前だったことがわかります。しかし時代の流れとともに病院での出産が一般的になってきているのです。今や自宅や助産院での出産は少数派となっているようです。つまり、必ずしも病院で出産しなければならないわけではないのです。
出産費用を健康保険制度からまかなう仕組みが出産育児一時金となります。協会けんぽ、組合健保、国民健康保険と、どの健康保険制度であっても利用ができます。現在は新生児1人あたり42万円、双子や三つ子の場合は人数分のお金を受け取れます。
しかし、東京都で59万円の出産費用がかかれば、出産育児一時金が42万円支払われても17万円の自己負担が生じます。一方で鳥取県であれば、40万円の出産費用に対して42万円の一時金ですから2万円が手元に残ります。地域間の格差があまりにも大きい。東京で出産すると20万円の追加支出、鳥取で出産すると2万円のお釣りがくると知っていたら都内の親はどう思うでしょう。
出産育児一時金はいくらが適正か
地域間の出産費用が20万円となると画一的に〇〇万円の支給ですと不公平感が出てきます。筆者の家庭では出産時に出産育児一時金相当額+アルファの支払いをした記憶があります。出産一時金を引き上げると、病院への支払いが増えるというジレンマも生じます。
これは、幼児教育の無償化が始まったにも関わらず、保育施設の都合で保育料が引き上げられた現象と酷似しています。利用者の負担が減ることで、サービス提供者は利用料を引き上げやすくなるのです。
1つの解決策としては、厚生労働省が出産費用の水準を定めた上で、出産費用の自己負担を0円にすることです。一時金を引き上げるたびに出産費用が上がっている状況ですとイタチゴッコで利用者負担が減らない可能性が考えられます。
出産に伴い行政からの支援が必要な3つのこと
出産費用の負担を減らそうという与党の考えは理解できるものの、すこしばかり焦点がズレている印象を受けます。筆者が考える支援すべき出産関係の項目は下記となります。
(1)妊娠検査の無償化
高校生などの未成年や若年者の妊娠出産でよく聞かれるのはお金がかかるため妊娠を公にできず、母子手帳も持たない。妊婦検診もお金がなく受診できなかったというものです。
そのため、まずは妊娠検査の資金負担を軽くする必要があります。そのための制度が妊娠検査の無償化です。緊急避難的な産婦人科の受診も含めて、妊娠検査を無償で女性に提供するのです。
この無償化の実施にあたっては夜間や土日の検査も実施できるような体制を構築することが望ましいと考えます。産めよ増やせよだけでなく、望まない妊娠に対しても包括的に対応する必要があります。
(2)妊娠一時金
次に妊娠一時金です。妊娠した事実を確認し母子手帳を取得した方が金銭的にメリットとなる制度が必要です。
妊娠検査の結果、妊娠中であることがわかった場合、即時に一時金を受け取ることができればどんなに安心できるでしょう。例えば10万円を即時に受け取ることができれば、妊娠に備えた準備用品の購入ができるでしょう。賛否分かれますが望まない妊娠であった場合、中絶費用を賄える程度のお金である必要もあります。
望んだ妊娠であれば、妊娠に伴う悪阻などによって働けなくなることもあるでしょうから、収入保障という側面も持ち合わせることができます。
(3)妊娠支援金
最後が妊娠支援金です。働いている女性であれば、平日の受診が必要なケースもあるでしょう。正規労働者であれば有給取得など受診日に仕事を休んでも直ちに収入減にはつながりません。
しかし、パートタイム労働者などでは妊婦検診で仕事を休めば収入減に直結します。そうならないよう妊婦検診費用相当に加えて、所得補償と交通費相当に充当できる支援金があると良さそうです。
例えば、前述の一時金の他に、妊婦検診を実施すれば1万円受取れる制度であれば、資金的なゆとりのない女性も妊婦検診に行く理由ができるでしょう。親に内緒で妊娠した若年者であっても、妊婦検診を欠かすことなく受診することで妊娠に対する心構えや公的支援を受けやすくなるでしょう。
このように、妊娠から出産までの助走期間を伴走するような制度があると資金にゆとりがない家庭でも安心して妊娠、出産に臨むことができるのではないでしょうか。
内閣や国会議員の方々は、まず女性の声を聴くことから始めてはいかがでしょう。
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