走りの質を高めるドライバビリティの変化
マツダのニューモデル攻勢がユニークである。
今回新たに年次改良された「CX-5」は、2020年モデルとしてはいるものの、アッと驚くような華やかなテコ入れではない。機械や技術先行ではなく、人間の感覚を大切にしたことで、走りの質を大幅に高めることに成功したのだ。
今回メスが入ったのはディーゼルエンジンである。「スカイアクティブ-D2.2」と命名されているエンジンは、軽油を燃料としている。直列4気筒、排気量は2.2リッター、ターボチャージャーと組み合わされたユニットは、最高出力200ps/4000rpm、最大トルク450Nm/2000rpmを絞り出す。特徴的なのは出力であり、今回の改良により+10psを実現している。
今回は高速道路を利用したドライブにも挑んだが、料金所から流れに乗るための加速で力強さを感じることができた。CX-5はミドルクラスのSUVであり、決してボディは軽くはない。車両総重量は1.7トンに達しているのだが、速度の嵩(かさ)上げに苦労することはなかった。今回は1名でのドライブだったが、荷物を積載し数人でのロングドライブでも不満はないだろう。
特に興味深かったのは、ドライバビリティ(運転性・操縦性)が変化していることだ。それも、声高に叫ぶような革新的技術を投入したわけではない。コストのかかるパーツを投入したのでもない。アクセルペダルの踏み応えを細工することで、走りの質感を高めることに成功しているというのだから驚く。単純にいえば、アクセルペダルが戻ろうとする反力を強め、ペダルの踏み込みに強い踏力を要求しているのだ。これによって、走りが力強くなるというから不思議である。
実際にエンジンは200psに強化されているとはいえ、低回転トルクには変更はない。エンジンを3000rpm以上に回した時の力強さは、先ほどの高速流入などで感じさせられたものの、赤信号からの発進といったアイドリング+αの領域には手が加えられていない。だがその低い低速領域でも力強く感じたのは、アクセルペダルのチューニングが効果を発揮していたからなのだろう。ドライバーに接するインターフェイスが重要なことを再認識させられた。
クルマの完成度を上げる知恵と情熱
なぜそんな細部にまでマツダはこだわるのだろうか…。
まず、マツダは「ドライバー・オリエンテッド」をスローガンにするメーカーであるということだ。「Be a driver.」が意味するように、運転する喜びを社是のように掲げているのである。したがって今回も「走る歓び」を具体としたのだ。
CX-5はマツダの主力車種である。すでに世界で300万台を販売しているばかりか、グローバルでマツダの4分の1をCX-5が稼いでいる。
しかも、そのCX-5のうち、62%がティーゼルである。直列4気筒2リッター、あるいは直列4気筒2.5リッターのガソリンエンジンもラインナップに備えるのに、62%がディーゼルだというのだから珍しい。早くからディーゼルエンジンに力を注ぎ育ててきたからこその人気であろう。それゆえに、ディーゼルのドライバビリティにはただならぬ愛情を注ぐのである。
多額のコストをかけずとも、知恵とアイデアと情熱が、クルマの完成度を大幅に上げる。そのことを教えてくれたような気がした。
【試乗スケッチ】は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【クルマ三昧】はこちらからどうぞ。YouTubeの「木下隆之channel CARドロイド」も随時更新中です。