名車の魂を受け継ぐキドニーグリル
BMWの誇る正統派クーペ「4シリーズ」がフルモデルチェンジ。日本市場に投入された。BMWのラインナップでいえば、2、4、6、8の偶数グレードにクーペが設定されており(現在は6シリーズのみ不在だが)、一足早く、新世代の縦長の「キドニーグリル」となって誕生したのが印象的だ。
4シリーズの中でまず、M440iと420iの2グレードが先行してデビュー。武闘派のM4や爽快なオープンエアーが堪能できるM4カブリオレや、あるいはスタイリッシュ4ドアのグランクーペは遅れてのデビューとなる。しばらくは、日本市場新旧併売なのである。だからこそ、真っ先に海を渡ってきたM440iに注目が集まる。
そしてその視線は、存在感豊かなキドニーグリルに注がれる。先代のキドニーが横長だったのとは打って変わって、天地に量感のある縦長になった。これからのBMWキドニーを象徴するような、古代ギリシャ神殿を想像させるような造詣になったのである。
最近のBMWが、キドニーグリルの巨大化を進めているのには理由がある。2019年には約72万3000台を販売し、前年比で13.1%も増加した中国市場を意識しているからである。BMWの日本での販売は約4万6000台である。それでも輸入車のトップに並んでいるというのだから人気のモデルには違いないが、中国との差は圧倒的だ。となれば、威圧的な顔つきを好む中国の趣味嗜好(しこう)を取り入れなければならず、グリルが巨大化したのである。そう考えてもいい。
ともあれ、中国に迎合したわけではない。縦長のキドニーグリルはむしろBMWの伝統でもある。1933年にデビューしたBMW初のオリジナルモデル「303」はすでに縦長のラジエターグリルを備えていた。1936年に誕生したBMW328は、その伝統を受け継ぎ、スタイリッシュな走りのモデルとして昇華、そのフロントマスクには燦然(さんぜん)とキドニーグリルが輝いているのだ。起源へのオマージュでもある。
キドニーとは、英語で腎臓を意味する。大きな開口部が対になって並ぶ様子が造形的に腎臓に似ていることからそう呼ばれることになった。腎臓と呼ばれたのは、その開口部が縦長だったからである。つまり、古くからBMWのキドニーグリルは縦長であり、昨今の中国市場を意識したということだけが理由ではなさそうだ。
BMWではそれを公言している。1936年デビューのBMW328だけではなく、BMW635iやBMW2002といった伝説の名車も縦長キドニーであり、その魂を受け継いでいるという。
快感を覚えるエキゾーストサウンド
さて、そのM440iの走り味は軽快である。そして力強い。おそらく2021年の初春に日本投入となるM4はこのM440iを遥かに凌(しの)ぐパフォーマンスを披露するに違いないが、M440iは力強さに加え紳士的な振る舞いが備わっている。
搭載するパワーユニットは直列6気筒3リッター、シングルターボチャージャーが組み合わされる。最高出力は387ps、最大トルクは500Nmに達するというから、加速力は凄まじい。
絹のように滑らかに回る直列6気筒であることからシルキー6と呼ばれるそれは、全回転域で淀みなくトルクが溢(あふ)れ出す。エキゾーストが迫力のある音量を響かせるものの、密度の濃いシリンダの爆発が伝えるバイブレーションやサウンドは快感ですらある。そのエンジンを味わうだけでも価値があると思える。
もちろんコーナリング姿勢は爽快で鋭い。だが、その伝統的な縦長キドニーが主張するように、新鮮な空気を腹いっぱいに吸い込んで、500Nmという強力なパワーを見舞う瞬間こそ、M440iが光り輝く瞬間のように思えた。
これからしばらく、縦長キドニーグリルの時代が続きそうである。そしてそのイメージリーダーとして4シリーズがBMWを牽引する。
【試乗スケッチ】は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【クルマ三昧】はこちらからどうぞ。YouTubeの「木下隆之channel CARドロイド」も随時更新中です。