コンパクトEVとは別次元の破壊力
「e-tron」はアウディ初のEV(電気自動車)となる。世界初に挑むことの多いアウディにしては遅きに失した感が拭えないが、アウディ史上画期的なモデルであることに疑いはない。
特徴的なのはe-tronがミドルサイズのSUVであることだ。それが意味するところは深い。三菱「i-MiEV」(アイ・ミーブ)や日産「リーフ」のようなコンパクトクラスにすることなく、決して小さくないSUVとしてデビューしたことは、圧倒的な動力性能と長い航続距離を狙ったことにほかならない。
全長は4900mmであり、全幅は1935mm、全高は1630mmに達する。およそ700kg超のバッテリーを搭載しているから、車両重量は2.4トンを超える。重量級EVなのである。
市街地の移動で重宝するシティーコミューターではなく、ダイナミックな使用を前提としているのだ。欧州では国から国の移動も少なくなく、しかも長い移動距離と高い速度レンジが特徴のドイツでは欠かせない要件だというわけだ。
定格出力は165kW。最高出力は230kW。最大トルクは540Nmに達する。電気モーターの特性で、発進の加速は鋭い。2.4トンのボディをスルスルと、わずかに近未来的な金属音を響かせて加速させる。アクセルペダルを床踏みしてもそれほど速度が積み重なっていくわけではないが、少なくとも軽量コンパクトEVとは別次元の破壊力がある。
電子制御エアサスペンションを組み込んでいることもあり、乗り味は上質だ。ダウンヒルコントロールが組み込まれ、オフロードドライブの設定があることから、おそらく本格的なオフロード走行もこなすのだろうが、そうは思えぬほど高級感に溢(あふ)れている。圧倒的な走破性を包み隠したアーバン4WDの佇(たたず)まいである。
趣味性の高い魅力的なEV
数々の先進技術の中で、まず目が吸い寄せられたのは、デジタルのサイドミラーである。本来サイドミラーがある位置に小さなカメラを設置。カメラが捉えた画像をドアに埋め込まれたモニターに映し出すというものだ。レクサスESが世界で初めて発表した機能だが、モニターがドアに埋め込まれている点がスマートで好ましい。だが広角エリアや距離感の曖昧さが消えておらずドライビングに神経を使う。まだ鏡の精度には及ばない。今後に期待の機能だと思える。
ともあれ、気になる航続距離と充電時間の関係が消化されていないのも事実。アウディe-tronに限らず、この手のビッグパワー大容量EVが抱える問題点が浮き彫りになる。
バッテリー容量は71kWhである。一充電の走行可能距離は316km(WLTCモード)である。充電できる電力量は100Vの普通ケーブルでは3kW。200Vに増強していても8kWだ。夜通し通電させていても満充電にはならないこともある。
巷(ちまた)の25kWh急速充電器でも、30分では50kmほどしか走行距離が稼げないし、高速道路に設置されている50kWh急速充電器でも100km程度である。100km走行するのに30分のチャージが必要だとするのならば、ロングドライブは現実的ではない。アウトバーンを往復する姿は想像できないのだ。充電ステーションが充実している日本であっても、ロングレンジEVに躊躇してしまう理由になる。
とはいうものの、充電残量の心配の少ない近所の往復では、その圧倒的な性能は猫に小判である。電気消費量に優れたコンパクトEVが有利だ。という意味では、アウディe-tronは多分に趣味性が高いEVということになるが、それでもe-tronは魅力的に見えるのだ。
【試乗スケッチ】は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【クルマ三昧】はこちらからどうぞ。YouTubeの「木下隆之channel CARドロイド」も随時更新中です。