加速の醍醐味はEVを凌駕
スバルが開発した新型1.8リッター直噴ターボがバリエーションを増やしている。昨年「レヴォーグ」に搭載し、高い評価を得ているそのパワーユニットを「フォレスター」に搭載したのである。しかも、新たに「スポーツ」仕様を使い設定。新開発エンジンを軸とした商品展開は今後も続きそうな気配なのだ。
それも道理で、新開発1.8リッターユニットは電子制御筒内燃料直接噴射システムを採用している。より緻密なエンジン制御が可能になり、少量のガソリンを効率的に燃焼させることが可能だ。燃料消費を抑えるから経済的であり、同時に環境的なメリットもある。巷ではカーボンニュートラル論で賑やかだが、そんな時代に電気の力を借りない純然たる内燃機関を突き詰めているのだ。
エンジン特性は力強い。極低回転域では多少トルクが細い。回転初期から最大トルクを炸裂させるハイブリッドやEVに慣れてしまうと、発進のちょっとしたもたつきを意識させられてしまう。だが、回転の上昇に比例しパワーを積み重ねていく感覚はEVでは絶対的に得られない。加速する醍醐味はEVを確実に凌駕(りょうが)する。
いかにも、なターボ特性も魅力的である。極回転域では鈍さが残るが、回転計の針が1500rpm付近に達すると、にわかな強力なターボ過給が開始される。スロットルペダルを踏み込む右足の予測を大幅に上回るトルクが炸裂する。加速度的にパワーが漲(みなぎ)ってくるのだ。内燃機関信仰者、とりわけターボチャージャーに執心なマニアにとってはたまらない特性といえよう。
もちろんフォレスターは、スバルが誇るAWDシステムが投入されている。左右対象の水平対向4気筒ターボユニットをフロントに搭載、フロントの左右輪に駆動力を分配したのちに、ボディ中央を貫くプロペラシャフトを介して左右の後輪に伝達される。左右均等のバランスゆえにシンメトリカルAWDとして尊重されるシステムが安定した走り味の源だ。
とは言え、派手なテールスライドを演じることはない。今回はスノーロードでの試乗が企画されたのだが、滑りやすい路面でも高い踏破性を確認することができた。
優しい走り味を備えたAWD
アクティブトルクベクタリングは、左右の駆動力をコントロールするシステムである。積極的に外輪に駆動トルクを伝えるものではなく、コーナリング中の内輪にブレーキをかけることで相対的に外輪の駆動力を高めるもの。これによって、背の高いSUVであっても旋回性は整う。ただ悪路からの脱出性能が高いだけのAWDではなく、優しい走り味を備えたAWDなのだ。
もちろん悪路走破性も際立っている。駆動力配分やデファレンシャルギアの差動制限をする。新たに搭載された制御技術「X-MODE」を「スノー/ダート」に設定すれば、泥道や雪道でも安心して走れる。さらに「ディープスノー/マッド」モードに設定すれば、その名が示すように、深く足を取られそうな新雪路やぬかるみのような泥濘(でいねい)地でもスタックから救ってくれる。そういったクロスカントリー性能も秘めているのである。
路面からの振動を伝えるし、ロードノイズも低くはない。その点ではスペシャリティモデルという言い方は相応しくはない。より車高の低いレヴォーグほど安定フィールが得られないのはSUVであるからだ。
だが、新たに設定されたスポーツモードであることから、SUVからイメージする腰高の印象はない。高速巡航も軽々とこなしてみせた。フォレスターの個性が一層磨かれたような気がする。
【試乗スケッチ】は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【クルマ三昧】はこちらからどうぞ。YouTubeの「木下隆之channel CARドロイド」も随時更新中です。