目線に反応し機能が作動
今回発表された新型レクサスLSに搭載されたのは、「レクサス・チームメイト」と呼ばれる高度運転支援技術のひとつ、「アドバンスドドライブ」(Advanced Drive)である。
高速道路や自動車専用道路での使用に限定されるものの、一部ハンズフリーでの走行が許される。ドライバーの監視のもと、アクセルやブレーキ、ステアリング操作から解放されるのだ。カーブでは適切な速度でコントロールし、渋滞路でもゆったりと先行車に追従する。スロー走行車両の追い越しなども、安全に、静かに制御される。
米国SAE(自動車技術会)が示した運転支援技術で言えばレベル2となる。先行車追従や車線変更など、これまでもレクサスが採用してきた技術である。だが、レベル分けすることが無粋に思えるほど、その内容は進化していた。
たとえば、アドバンスドドライブの設定は、ステアリング上のスイッチを1回押すだけで完了する。あくまでカーナビに目的地を設定した上での制御にはなるものの、スムーズにシステムを立ち上げることができる点が新しい。これまでのように階層をめぐって機能にたどり着くような煩わしさがないのだ。
スロー走行車両の追い越しは、目線を動かすだけで機能が開始する。先行車との明らかな速度差が検知されると、車線変更の希望の有無を問いかける。スイッチで承諾すれば、機能が働く。メーター内には、ドライバーの視線の移動や首の角度を監視するカメラが内蔵されており、サイドミラーで後方を確認したと判断された場合のみ車線変更が開始されるのである。
ポイントはそこ。あくまでドライバーの安全確認行動が前提である点だ。車線変更時には手をステアリングに添えていなければならない。ハンズフリーでの横移動はこれまであったものであり、今となっては驚くほどの技術ではない。だが、あえてハンズオフを規制している点が新しい。
それを体験してあらためて「レクサス・チームメイト」の言葉の意味を理解した。高度な技術とドライバーがそれぞれ得手不得手を補完しあってこそ、スムーズな高度運転支援技術が成り立つという考え方である。
恐怖心を抱くことのない自然な動き
あらためて思い知らされるのは、レベル3なりレベル4という記号のためにハンズフリーや後方確認なしの先行車追い越しがはたして快適であるか、という認識である。恐る恐るの制御ではなく、後方確認しながらの運転支援の方がはるかに安心していられる。実際にアドバンスドドライブは、交通の流れを乱さない程度に素早く、力強く、普段僕らが日々こなすタイミングとリズムに近いテンポで車線変更をこなしてくれた。これは驚きだった。
たとえばレーンキープでのクルーズコントロールを作動させながら、複数の車線がある道路を走行中、巨大なトラックを追い抜くとする。その時でさえ、車線内でわずかにトラックとの間隔を広げながら走行してくれるのだ。これまでのように、ただ無機質に車線の中央にこだわりながら走行された時の恐怖心がない。人間の感覚に寄り添ってくれることが好感触だった。
クルーズコントロール中、合流する車両が確認されたとする。これまでだったら厳格に、先行車との間隔を維持しようとする。だが、アドバンスドドライブは、自然に合流しやすいように速度をやや緩め、間隔を確保しようとする。他の車両との優しい関係が得られるのだ。
技術的なトピックは、「LiDAR」(ライダー)の採用であろう。これまでと同様のミリ波レーダーとカメラに加え、より正確に対象物の輪郭を細かくとらえることが可能なLiDARが組み込まれたことで、より緻密な認識が可能になった。だが、アドバンスドドライブの本質は、人間の感覚に寄り添う優しいプログラミングにあると思う。
不安を抱えたまま、体を硬直させながらの高度運転支援技術ではなく、現実的な交通の流れに溶け込むかのようなアドバンスドドライブこそ、いま僕らが最も欲しい運転支援であることを突き付けられたような思いである。技術の進歩は大歓迎だが、レベル2だ、レベル3だと一喜一憂することが無粋のように感じさせられた。
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