試乗スケッチ

戦闘力が増したルノー「メガーヌR.S.」 鋭い旋回性能を生む4コントロール

木下隆之

 箱根のワインディングで開催されたルノーの「メガーヌR.S.」の試乗会は、春うららかな好天に恵まれた。この手の過激なスポーツモデルを試乗するには、この日のようなカラッと晴れた天候はありがたい。とくにマイナーチェンジを受けたメガーヌR.S.の戦闘力はさらに増しており、仮にウェットな路面ともなれば、その研ぎ磨かれた性能を引き出すのは困難だっただろう。

 新型メガーヌR.S.はまず、パワーアップが図られた。水冷直列4気筒1.8リッターターボエンジンは279psから300psに増強されている。すでにメガーヌR.S.の戦闘マシンである「メガーヌR.S.トロフィ」がそのエンジンを搭載しており、世界最速記録を奪い争っている。世界一過酷とされるドイツのサーキット、ニュルブルクリンクでのレコード争いに名乗りを上げており、量産車FF駆動世界最速の座に輝いたこともある。ちなみに最大のライバルは「ホンダ・シビックタイプR」であり、熾烈なバトルを繰り広げているのだ。その戦闘マシンの心臓部が移植されたのだ。

 1.8リッターが絞り出すパワーとしては300psは驚異的であり、いかにもターボ過給に頼った力強い加速フィールが炸裂する。過給圧がフルチャージした途端、何かが破裂したかのようにドカンと加速する。それを称して「ドッカンターボ」。カーフリークが愛情を込めて口にする、それである。

 だが、このマシンのすごみはそこだけではない。FF駆動と耳にすれば、多少の旋回性も犠牲にした感覚を想像する御仁もおられようが、メガーヌR.S.はどこか4WDであるかのような操縦特性を披露する。FFにありがちな前輪に頼って走る感覚ではなく、後輪で回し込む感覚が強い。慣性力に負けてコーナーをはらんでいるアンダーステア気味の挙動はほとんど顔を出さないのだ。

 公道を走るレコードブレイカー

 それもそのはず、メガーヌR.S.には4コントロール機能が組み込まれている。ステアリングを切り込むと、前輪とは逆の向きに後輪が転舵する。右にステアすれば後輪は左に、左にステアすれば後輪は右に向きを変えるのだ。最大2.7度という、数字にすればわずかな逆位相だが、コンマ数ミリで大きく挙動が変わるのがクルマの世界である。そこでの2.7度は大きすぎる。

 もちろんそれは、駐車場などでの取り回しを意識した最小回転半径のためではない。それにも効果を発揮するが、むしろ限界領域でのスポーツ性能のための機能である。高い速度でコーナーに飛び込むときのフロントが外側にはらむ現象を、後輪が逆位相に転じることで補うのである。鋭い旋回性能が得られるのは4コントロールの効果が大きい。

 しかも驚きなのは、最大2.7度の逆位相が、速度が100km/hに達するまで維持されることだ。それ以上の速度域では前輪と同じ向きの同相に最大1度まで転舵することで車両を安定させるのだが、それまでは逆位相で旋回力を強調するのである。

 100km/hとは、高速道路の法定最高速度である。一部の区間を除くものの、日本の高速道路のあの速度域でもメガーヌR.S.ははまだまだ曲がりたがるのである。

 これはもう、アベレージ速度200km/hに届かんとするニュルブルクリンクを想定してのセッティングに他ならない。まさに公道を走るレコードブレイカーと呼ぶに相応しいマシンなのである。

 もちろん公道でいたずらにスリリングな挙動に陥るほどマナーは悪くはないが、その気になればレーシングカーのように攻撃的なドライビングが可能だということだ。

 一部のマニアの世界でメガーヌR.S.が神格化されている意味が理解できた。

木下隆之(きのした・たかゆき) レーシングドライバー/自動車評論家
ブランドアドバイザー/ドライビングディレクター
東京都出身。明治学院大学卒業。出版社編集部勤務を経て独立。国内外のトップカテゴリーで優勝多数。スーパー耐久最多勝記録保持。ニュルブルクリンク24時間(ドイツ)日本人最高位、最多出場記録更新中。雑誌/Webで連載コラム多数。CM等のドライビングディレクター、イベントを企画するなどクリエイティブ業務多数。クルマ好きの青春を綴った「ジェイズな奴ら」(ネコ・バプリッシング)、経済書「豊田章男の人間力」(学研パブリッシング)等を上梓。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。

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