試乗スケッチ

二つの表情を見せる新型「ヴェゼル」 さらに磨きがかかったホンダの“屋台骨”

木下隆之

 ホンダの屋台骨を支えるコンパクトSUV「ヴェゼル」がフルモデルチェンジされた。売り上げ好調だった先代を受け継ぐ2代目は、基本的にはキープコンセプト。とはいえ、視点を変えて観察すると、ガラリと意匠を変えたように二つの表情を見せるのだ。

 エクステリアを眺める限り、先代の面影は薄い。細部にはヴェゼルらしい造形が確認できるものの、フォルム全体から漂うオーラは先代のような庶民的なまとまりではなく、どこか欧州車的な華やかな雰囲気が漂う。したがってボディサイズはほとんど変わっていないのに、大きく堂々として映る。存在感が際立っているのだ。

 スリーサイズにはほとんど違いがないが、室内空間には余裕がある。特に後部座席の足元は先代比で35ミリも余裕がある。着座点も高いから視界も開ける。試乗グレードの「ヴェゼルPLaY」には、広大なガラスルーフが広がる。開放感は飛び抜けており、機能性だけではなくプレミアムな遊び心が感じられるのだ。SUVの主役は運転手のように感じていたが、後部座席に座るパッセンジャーが主役に躍り出せたように思う。

 走りの性能も際立っている。搭載するパワーユニットは2タイプ。ホンダの伝家の宝刀である2モーター「e:HEV」(イーエイチイーブイ)ハイブリッドとガソリン仕様である。今回はハイブリッドを選択したのだが、走りの成熟度は高い。

 ホンダの「e:HEV」は、「シリーズ・パラレル式」と「シリーズ式」の“いいとこどり”でもある。通常はガソリンエンジンは発電機として機能し、それによって蓄えられた電力でモーター駆動する。したがって走りはEVそのものだ。だというのに高速域ではエンジンと駆動輪を直結する(試乗車はFF)。それによってガソリンモデルであるかのような高い効率で走行するのだ。

 エンジンの回転フィールは上質である。直列4気筒1.5リッターは気持ち良いバイブレーションを響かせる。ゆえにEV走行での静粛性が際立っているだけでなく、エンジンが始動しても不快感はない。

 保守的でありながら革新的

 走りも上質だ。重量のかさむバッテリーを床下に搭載しており、それが重厚感のある走り味に結びついている。それでいて乗り心地は優しい。サスペンションが弱められているのだ。にも関わらず不快なロールはない。ややペースを上げてアップテンポなリズムでワインディングを駆け抜けても、いや、速度を上げれば上げるほどフットワークが軽くなる印象なのだ。

 3段階のドライブモードをスポーツに設定すれば、走りの高揚感はさらに増す。アクセル開度に対するパワーゲインが高められるから、さらに高い躍動感が得られるのだ。しかもミッションをDからBレージにシフストすれば、アクセルオフでの減速Gも高まる。

 ステアリング裏にはパドルが組み付けられており、さらに4段階の減速Gが選択できる。ほとんどワンペダル的な走りも楽しめるのである。峠道を飛ばして走りに興じるタイプのクルマではないが、ロングドライブでも不満はないだろう。 

 新型ヴェゼルは、ある意味で保守的であり、ある意味では革新的である。サイズは無闇に肥大化せず、使い近い勝手を維持している。それでいてプレミアム感覚が強調されている。オシャレ度と車格感が増している上に、走りの上質感にも磨きがかかっているのだ。これからもホンダの屋台骨でいるに違いない。

木下隆之(きのした・たかゆき) レーシングドライバー/自動車評論家
ブランドアドバイザー/ドライビングディレクター
東京都出身。明治学院大学卒業。出版社編集部勤務を経て独立。国内外のトップカテゴリーで優勝多数。スーパー耐久最多勝記録保持。ニュルブルクリンク24時間(ドイツ)日本人最高位、最多出場記録更新中。雑誌/Webで連載コラム多数。CM等のドライビングディレクター、イベントを企画するなどクリエイティブ業務多数。クルマ好きの青春を綴った「ジェイズな奴ら」(ネコ・バプリッシング)、経済書「豊田章男の人間力」(学研パブリッシング)等を上梓。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。

【試乗スケッチ】は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【クルマ三昧】こちらからどうぞ。YouTubeの「木下隆之channel CARドロイド」も随時更新中です。