世界的潮流であるカーボンニュートラル(脱炭素)に対応する形で、メルセデスが力を注いでいるのが電気自動車(EV)化である。このところ次々と「EQ」シリーズを発表していることでそれはわかる。
内燃機関を含めてフルラインナップを揃えるメルセデスは、“すべての車両をEVにする”といった闇雲な電動化戦略を打ち出してはいない。だが、EVモデルの充実を急いでいるのはたしかだ。ガソリンエンジンを主体にした最高級のSクラスをリリースしたばかりだというのに、その直後に「EQA」を発表。電動化へも並々ならぬ意欲を示しているのだ。
EQシリーズとはメルセデスのEVモデルの呼称である。末尾の「A」は車格を表しているようで、つまりAクラスからアルファベットが進むに従ってボディサイズや価格帯が高まるメルセデスの流儀にならったもの。つまり、「EQA」は電気モーター駆動するAクラスと認識して良い。
とはいうものの、Aクラスがコンパクトなボディをベースにした大衆路線であるのに比較して、ボディサイズは決してコンパクトではないし、チープな印象も薄い。
全長4465ミリ、全幅1835ミリ、全高は1625ミリに達する。広報資料の文言を借りれば「ちょうどいいサイズ」であり、つまり、日本の市街地でも持て余すことなく、それでいてフル乗車でのロングドライブもこなせるというサイズ感である。
存在感のあるSUVフォルムであり、実際にドライブしていても窮屈な印象はまったくない。そればかりか、Aクラスから想像するより広々とした空間が広がる。EQAの「A」をAクラスから引用としているのは嘘なのかもしれない、とさえ思う。
「あざとさ」のない自然な乗り味
搭載するバッテリー容量を表す総電力量は66.5kWh。モーターの最高出力は140kW、最大トルク370N・m(ニュートンメートル)であり、2トンに迫るボディを力強く加速させるには非力なのだろうと予想したものの、実際には十分すぎるパワーフィールである。回転の瞬間から最大トルクを発揮する電気モーターの特性上、信号待ちからの最初の一歩や、減速から一転してフル加速する場合などの反応が早い。そして力強いのだ。だが、過剰にEV感を強調することもなく、EVビギナーにも違和感なく受け入れられそうな感覚である。
それでいて、フル充電からの航続可能距離はWLTCモード(国際的な燃費測定方法)で422キロ。現実的には300キロを走り切ったあたりで急速充電が気になり始めるだろうから、つまりは、日帰り圏内のドライブが守備範囲になるだろう。
充電はEVの急速充電器CHAdeMO(チャデモ)にも対応しているから、チャデモを主体にしたインフラの日本での使い勝手も良い。そもそも自宅での普通充電を繰り返していれば、通勤通学には充分賄える。近距離から中距離移動の“SUVランナバウト”(自由に走り回るSUV)といった性格であろう。
それにもまして、乗り味が整っている。これも同様、AクラスやGLAクラスと比較するのが気が引けるほど上質である。バッテリーやモーターといった決して軽くない重量物を積んでいることが、ネガティブな材料にならない。むしろそれを重厚感に置き換えている。
特徴的なのは、新世代のEVであるにもかかわらず、無用な気負いがないことだ。いかにも「先進的でございます」といったあざとさがない。内外装のデザインも、コンベンショナルな内燃機関のモデルとテイストは共通しているし、走り味もこれみよがしなEV感はない。そうと知らされなければ、EVと気が付かないほど自然な立ち居振る舞いなのである。
もはやEVは特別な存在ではなくスタンタードになったのだと、メルセデスが語っているようだ。
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