日産がニューブランド「ノート・オーラ」を発表し、発売を前に試乗することが許された。ステージは日産のテストコース。勢いを失っていた日産が「ノート」や「キックス」で浮上する気配が漂い、「フェアレディZ」のフルモデルチェンジがティザー的に公開され、さらには新世代の電気自動車(EV)「アリア」がデビューを控えている。明るい話題が続くこの時期、ニューカマーが姿を現したのである。
1ランク上の静粛性
その名から想像されるように、ノート・オーラはノートの派生車種となる。基本的な骨格やパワーユニットはノートをベースにしている。
最大のトピックは、ボディサイズが拡大されたことだ。といってもノートとの全幅の差は+40ミリでしかない。全幅1695ミリだったノートのフェンダー周りを広げることで、全幅1735ミリになった。5ナンバー枠に留めるためにスクエアなボディスタイルだったノートに比較すると、わずかにのびやかな印象。規格上は3ナンバーとなる。
室内空間はノートと違いはない。だが、コンパクトモデルとしては贅沢にシートを3層構造とするなど乗り心地にこだわっているし、ツイード素材や本木目調のバネルを多用するなど装飾も豪華。高音質のBOSE製オーディオも8スピーカーとするなどノートとの差別化は徹底している。
走りの質感にも向上の跡が確認できる。天井やガラスにも、コンパクトクラスとしては異例に豪華な吸音材が張り巡らされており、静粛性が一段と高い。乗り心地もひときわ整っている。
パワーユニットは、e-POWER。直列3気筒1.2リッターエンジンは、そもそも発電機としてしか機能しない。だが、エンジン出力が高められ、さらに駆動モーターも280N・m(ニュートンメートル)から300N・mへスープアップ。発進加速の力強さが格段にアップした。低回転域からの発進は電気モーターならではのハイレスポンスなもので、数値から想像するよりはるかに俊敏な走り味を披露する。
駆動方式は4WD。フロント駆動ではなく、リアからの押し出しも強い。実はノート・オーラは、減速時の回生効果をリアタイヤにも依存している。そのために、減速時にもボディが前のめりになりづらく、フラットの姿勢を保つ。マナーがとても良いのだ。
「3ナンバー」の意味が理解できる走り
後輪に駆動力が加わったことから、フロントタイヤの仕事量が減った。横グリップ、つまりコーナーでの旋回が素直になった。ホイールベースの短いコンパクト系FFモデルにありがちな、ハンドルに頼り切るような粗さは薄れている。
ただ、ノート・オーラに施した数々の改善や強化は、単に走りのパフォーマンスを引き上げることが目的ではないようだ。駆動モーターの強化は静粛性にメリットが見出される。遮音吸音材を貼り込んだこともあって、ワンランク上の静粛性を実現している。アクセルペダルを床まで踏み込み、発電用エンジンを唸らせ、耳をそばだててはじめて内燃機関の存在を意識するといった具合である。それに加えて姿勢が安定しているから、上質な走行フィールが得られるのである。
外観からは、5ナンバーのノートとの違いはささやかなものだ。だが、ノート・オーラは税制的に負担を強いる3ナンバーである。その価値があるのか試乗をするまでは疑問だったのだが、走らせてその意味を理解した。決して派手ではないけれど、真摯な開発姿勢でコンパクトハッチを熟成していたのである。
「ちょっとだけ大人のノート」。ノート・オーラはそんな立ち位置であろう。
【試乗スケッチ】は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【クルマ三昧】はこちらからどうぞ。YouTubeの「木下隆之channel CARドロイド」も随時更新中です。